ドラッグストア研究会 松村清 最新USレポート 第24回 心のつながり(ハイタッチ)

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ドラッグストア研究会 最新USレポート

第24回 心のつながり(ハイタッチ) 

孤独なシニアは人間的なコミュニケーションを求める 

ウォルグリーン

シニアになると子供は大抵独立しているし、仕事も辞めていればそれまでに築いた人間関係は失われてゆく。年齢が高くなればなるほど配偶者や友人、知人を失っていくので、孤独になる人が少なくない。孤独なシニアは人間的なコミュニケーションや触れ合いを求めるようになる。だから彼らへの対応では心のつながり、いわゆるハイタッチが大切なのだ。例えば、車に乗ったまま買い物が出来るようにしたドラッグストア・ウォルグリーンのドライブスルー機能も、彼らの便利さを考えて導入されたものだが、実際には余り利用されていない。これを頻繁に使うのはむしろ忙しい人や小さな子供を抱えた人たちである。時間に余裕があるシニアにとってスピーディーなサービスはそれほど重要ではなく、テクノロジーに対して抵抗感が強いこともあるが、ヒューマンタッチを欲する人が多いことが影響している。シニアにとっては店での買い物がレクリエーションになっているケースもある。マクドナルドを見てもシニアの人々は仲間と店内でゆっくり食 事をしており、ドライブスルーを利用しているのを見たことが無い。


こうしたシニアを狙ったマーケティングでは、心のつながりを考慮することなく、単にモノを売るだけというのでは必ず失敗してしまう。段差の無い床、手すりがついたトイレ、店の入り口に一番近いシニアや障害のある人用の駐車場スペース、明るい照明などのハードだけではなく、ソフトのバリアフリーも非常に重要なのだ。ソフトのバリアフリーとは、シニアの人々にとって心理的に居心地が良いということだ。フレンドリーな笑顔と挨拶は最も手っ取り早いコミュニケーションの方法である。米国にチコ(Chico)というファッション店がある。ターゲット顧客は中高年の女性だ。そのためゆったりしたサイズの楽に着られる衣服が多い。店内にいる従業員の殆どはこれも中高年の女性だ。シニアのお客はその人たちとの会話を楽しんでいる。そのついでに品物を購入しているという状況だ。


笑顔の徹底で売上がアップ 

笑顔の挨拶

この点に注目したある小売業は「一にも二にも笑顔の挨拶」をモットーに揚げ、従業員に笑顔を徹底させた結果、シニアの売上げが大きく伸びたという。シニアは従業員とのおしゃべりや触れ合いを求める傾向が強くなるから、心のつながりを作るホスピタイリティからアプローチするのが効果的だ。手紙やはがきを定期的に送るのもいい。手書きが望ましいが、印刷物でも一言書き添えるだけで効果が上がる。それによって自分の存在が忘れられていないことが確認できるからだ。その一方、彼らは人生経験が豊かで、人を見る目もあり警戒心も持ち合わせているので、うわべだけの対応では簡単に見透かされるからなかなか難しい。


拙宅の周辺では行商人の姿を良く見かける。豆腐、野菜、パンなどを販売している。豆腐を積んだリヤカーがラッパをプーと鳴らすと、お客が家から出てくるのだが、その中にはシニアのお客が多い。「もっとちょくちょく来て!あなたが来るのを待っているのよ。」とか「頑張って働いてね。体に気をつけなさいよ。」などと言葉を交わしている。私もある時その行商の豆腐屋さんから豆腐、納豆、ひじきの煮つけを買いながら「一日どの位売れるの?」と尋ねたら、「自分は1日4万円位だが、よく売る人は7万円も売る」と答えてくれた。「良いお客様は年配の方たちで、お孫さんの話などの世間話をすると常連客になってくれる」と言っていた。

保守的なシニアにトレンドは不要 

シニア、ヤングトレントに対して

人間は年を取ると保守的になり、なじみを作りたがる。一方ヤングは次から次へと流行を追いかける。原宿にあるヤングギャル向けのファッション街は始終店が変わっている。その年代層にとっては、いつも同じブランドや店の商品を使っているのは時代遅れという感覚になるからだ。ヤング相手のビジネスは使い捨て文化だが、シニアは違う。化粧品にしても、若い時から使っているメーカーの商品を好むことが多い。あるドラッグストアで昔からあるブランドの化粧品を見かけた。店長へ今どきの商品と入れ替えたらと言ったところ、この辺りは昔からの住宅街で中高年の方々が多く、シニアのお客様の中にはこのブランドでなければ駄目という方がいるので、定番としておかなければならないという説明があった。大人用の紙おむつメーカが着脱しやすいように考えて改良した商品を市場化したところ、使用者から多くのクレームが来たという。「以前の紙おむつの方が慣れていて使いやすい」という。またある店ではお客が買いやすいようにと店内レイアウトを変えた。するとこれにも顧客からクレームが来た。「どこに何があるか分からない」という声が余りにも多かったため急遽元の売り場に戻すことにしたという。


数十年前のことになるが、世界最大の清涼飲料水メーカーコカ・コーラが新しいコカ・コーラの発売に当り莫大な経費を使って調査を行ったところ、米国人はそれまでのコカ・コーラより新しく発売されるコカ・コーラの味の方を支持するという結果が出た。そこでそれまでのコカ・コーラを引き上げて新製品に切り替えたところ、不買運動が始まった。米国の消費者にとって、慣れ親しんだコカ・コーラの味は、国旗と同じように米国の象徴なのだ。だから、人生を共に歩んだコカ・コーラの味を勝手に変えてしまったことに対して彼らから怒りの声が上がったのだ。コカ・コーラ社はあわてて従来のコカ・コーラを「コカ・コーラクラシック」というブランド名で市場に戻した。長年なじんだものを変えることは難しい。

中高年が「どげぬけ地蔵」に集まる理由 

「とげぬき地蔵」で有名な巣鴨地蔵通り商店街は、入り口から800メートルの間に約190軒の店がある。割烹着、シニア用の肌着、中将湯、実母散、昔からの塗り薬、湿布クスリ、毛染め、ろうそくなどシニア向けの商品が豊富な品揃えで揃えられている。毎月「四の日」の縁日ともなると、約3万人の人で賑わい身動きも取れなくなる。殆どが中高年の女性だ。店に入れば椅子やお茶を出してくれる。おしゃべりもしてくれる。病気の時には気遣ってもくれる。「からだのトゲはとげ抜き地蔵で、心のトゲは商店街で抜きましょう。」をコンセプトに商品を販売しながら家庭では聞いてもらえないような愚痴にも耳を傾け、お客のストレスを和らげてくれる。「たった一言が人の心を傷つける。たった一言が人の心を暖める。」を良く知っているのだ。この商店街はシニアに生きる力を提供し、商品と一緒に「元気」を持って帰ってもらっている。

 
 
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プロフィール

ドラッグストア研究会松村清会長
ドラッグストア研究会
松村 清 会長 (まつむら きよし)
 

Excell-Kドラッグストア研究会(http://www.drugstore-kenkyukai.co.jp/)、Excell-K薬剤師セミナー、及びExcell-Kコンサルティンググループを率いる流通コンサルティング会社Excell-K(株)ドムス・インターナショナルの代表者。小売業、卸店、メーカーに対するコンサルテーションをはじめ、講演、執筆、流通視察セミナーのコーディネーターとして活躍。特にドラッグストア開発、ロイヤルカスタマー作り、シニアマーケティングのための実務と理論に精通し、指導と研究では第一人者。年間半年を米国で生活し、消費者の目・プロの目を通して最新且つ正確な情報を提供しながら、国内外における視察・セミナー・講演を精力的にこなす。

日本コカ・コーラ(株)、ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)を経て独立('90)。慶応義塾大学卒(法学)、ミズリ―バレーカレッジ卒(経済)、サンタクララ大学院卒(MBA)。東京都出身。

CVS

■全米No.1のドラッグストア ウォルグリーン

主な書籍
セールス心理学―「No!」と言わせない商談必勝法
セールス心理学―「No!」と言わせない商談必勝法
松村 清 著
商業界 版
単行本
ページ 221P
サイズ 四六判
 
ウォルグリーン―世界No.1のドラッグストア
ウォルグリーン―世界No.1のドラッグストア
松村 清 著
商業界 版
単行本
ページ 295P
サイズ 四六判
 
シニアカスタマー―中高年に好かれる企業が市場を制する!
シニアカスタマー―中高年に好かれる企業が市場を制する!
松村 清 著
商業界 版
単行本
ページ 212P
サイズ 四六判
 
サービスの心理学―心に染みるエピソード集
サービスの心理学―心に染みるエピソード集
松村 清 著
商業界 版
単行本
ページ 239P
サイズ 四六判
 
目からウロコ 販売心理学93の法則
目からウロコ 販売心理学93の法則
松村 清 著
商業界 版
単行本
ページ 247P
サイズ A5ソフトカバー
 
・「ニューシニア(50歳以上)をつかまえろ!!
・「 売上げと利益を運ぶロイヤルカスタマー
・「最強のドラッグストア ウォルグリーン
・「 米国ドラッグストア研究
(以上、商業界刊)。
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バックナンバー
第31回 最近の米国ドラッグストア事情 (PartⅣ) 第32回 コンビニは衰退期に入ったのか?
第29回 最近の米国ドラッグストア事情 (PartⅡ) 第30回 最近の米国ドラッグストア事情 (PartⅢ)
第27回 ドラッグストアの業態進化論 (PartⅡ) 第28回 最近の米国ドラッグストア事情 (PartⅠ)
第25回 体の衰えとエイジフレンドリーな対応 第26回 ドラッグストアの業態進化論 (PartⅠ)
第23回 「ドラッグストア業態争奪戦」(PartⅡ) 第24回 心のつながり(ハイタッチ)
第21回 お客の欲求段階により大きく変化する品揃え 第22回 「ドラッグストア業態争奪戦」(PartⅠ)
第19回 シニアはわがままを聞いてくれる店が好きだ 第20回 繁盛店はユニバーサルデザインとソフトのバリアフリーの両方を提供
第17回 返報性の法則が大きく働く高齢社会 第18回 シニアはシニアと呼ばれるのを嫌う
第15回 お客様は愚かな買い物を嫌う、賢い買い物をしたい 第16回 ロイヤルカスタマー作りはホスピタルティーがカギ
第13回 “Rich Enjoy Discount, Poor Need Discount” 第14回 POPはサイレントセールスマン
第11回 価格に対する消費者心理の摩訶不思議 第12回 お客様は誰でもお得な買い物をしたい
第9回 お客様に好かれる陳列の工夫 第10回 ゴンドラエンドは売り場の華
第7回 有効なマーケティング手法になる音と香り 第8回 顧客の信頼を獲得するなら屋作り
第5回 少子高齢化のマーケティング 第6回 ゴールデンエイジ攻略の鉄則
第3回 ウォルグリーンが激しい異業態間競合を生き残れた理由 PartⅡ 第4回 非計画購買が店舗に売上げ・利益をもたらす
第1回 心理学を利用した利益を上げるレイアウト 第2回 ウォルグリーンが激しい異業態間競合を生き残れた理由 PartⅠ
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