業界の第一人である者がドラックストアの事例を交え「売る」極意を公開
第25回
体の衰えとエイジフレンドリーな対応
エイジフレンドリーになるために知っておくべきこと
シニアは、気は若くても体は衰えてきている。その肉体的な衰えにさりげなく気配りしてくれる店に感激する。こういうサービスを「エイジフレンドリー」という。エイジフレンドリーになるには、加齢によって肉体がどう変化するかを理解しなければならない。
1 ) 視覚の衰え
一般的に目は40代半ばから変化が起きる。ピントを調節する機能が衰え、いわゆる老眼が進む。その機能は50代になると、10代の10分の1まで低下するという。眼球の表面を覆っている角膜も濁り、瞳孔も小さくなる。その結果、近くのものが見づらくなったり、色が識別しにくくなったり、暗い照明の下では文字が読みにくいという現象が起きる。また、動きの速いテレビの画像が見にくくなるので、コマーシャルで場面が早く切り替わるものにはついていけない。瞳孔が縮小すると明るさの適応力も鈍るので、より明るい光が必要になる。80歳を超えた人がものを鮮明に見るためには、20代の3倍の明るさが必要であるという。 色の識別能力も低下し、色彩感覚にも変化が現れる。ちょうど黄色いサングラスをかけた状態に近くなる。そのため、青、緑、紫の違いは識別しづらい。黒とグレーなど明度が近いと識別するのが難しくなる。
先日、シニアの友人が北欧へパッケージ旅行で出掛けた。非常に気配りの素晴らしい添乗員だったそうだが、中でも助かったのが、翌日のスケジュールを大きめの文字で紙に書いて参加者に配布してくれることだったという。こうしたシニア層の視力低下に対応するには、次のような配慮が要る。
- 文字は大きくする
- 色やピクトグラム(絵文字)を活用する
- 文字を読ませるのではなく、イメージカラーを使う
- 色のコントラストや明度の違いをはっきりさせる
似たような色の組み合わせや明度の差が小さいと、シニアの視力では壁と床との境目やちょっと した段差も分かりにくく、ぶつかったり、足を踏み外したりして事故につながる危険性もある。
- 照明は明るく
ワックスでピカピカに磨き上げた床は、視力の低下したシニアにはアイススケートのリンクのように見える。まぶしさを減少させるために、カーペットなどを敷いてほしい。出入り口のガラスドアにも注意が必要である。シニアはガラスと気づかずに激突することがある。何らかの模様をつけて判別しやすくすることが肝心だ。 米国のドラッグストアではパッケージの後ろの注意書きをよく読んで購入したい薬などの売場には、簡易拡大鏡が据え付けられており、シニアの顧客に喜ばれている。
2 ) 聴覚の衰え
聴覚は視覚ほど問題にされないが、65歳以上になると4分の1の人は聴覚の衰えを感じている。それは単に耳が聞こえにくくなるということだけではなく、混在する音の選別が困難になる。つまり、自動車の騒音や空調の音、BGM(バックグラウンドミュージック)などがいろいろ混じってくると、目的の音が聞き取りにくくなるのである。従って、カウンセリングの場所や会話を交わす機会の多いレジでは、音声の入ったBGMは避けた方がいい。
老化による聴覚の低下はまず高音域から始まる。高音域が聞きづらくなるので、シニアの観客に聞こえるよう大声で話すのは必ずしも効果的ではない。往々にして声が高くなってしまうからだ。また、周りの人に耳が遠いことを知られ、気にしている人には恥ずかしい思いをさせることになる。大声を出すよりも、ゆっくり、はっきりと話せば聞こえる。聴力低下の悩みを抱えるシニアと円滑なコミュニケーションを図るには、なんといってもフェース・トゥ・フェース(対面)が効果的だ。相手の表情を見ながら、体の動きを確かめながら話すことができるからだ。米国の公園のベンチを見ると面白い。若い人の多い公園のベンチは長椅子タイプだが、シニアの多い公園はお互いの表情や動きが見やすいように相対して座れるように工夫されている。聴力の衰えたシニアから同じことを何度も繰り返し尋ねられることがあるだろう。彼ら自身も繰り返し聞くことを心苦しく思っている。しかし辛抱強く聞く姿勢が彼らをロイヤルカスタマーにする。
3 ) 指先の柔軟性の衰え
人間は年を重ねるに従って指先の柔軟性や器用さが失われていく。65歳以上の人は、半数以上が指の関節部分に何らかの障害を抱えている。シニア向け商品開発では、単に品質だけを追求するのではなく、手先の動きが悪くなった人たちにも使いやすい工夫が必要だ。財布、バッグ、家電製品、食品や飲料の容器、文具、家庭雑貨などに共通して言えることだ。衣服についても同様で、着脱が簡単なように大きなボタンや、ジッパーではなく重ね合わせるだけで固定できるマジックテープを使い、物を出し入れしやすい大きなポケット、袖がルーズになっていて腕の運動がスムーズにできるデザインが望ましい。 動作にも衰えが出てくる。脳で感知して手足の筋肉や関節に伝達する機能が衰え、反射神経や平衡感覚の低下が顕著になる。筋力も低下する。接客時にはシニアのスローな動作に気を遣い、重い荷物には手を貸す行為が必要になる。また前出し陳列されず奥に引っ込んでいる商品は取りづらいので彼らは購入を避ける。
4 ) 記憶力や思考力の衰え
年齢が上がるほど、物忘れが多くなる。昔のことはよく覚えているのに、さっき会った人の名前を思い出せないなどが好例だ。脳の働きは20代前半にピークを迎え、その後は次第に低下していく。40代半ばを過ぎる頃から物覚えが悪くなるし、覚えていたはずのことが思い出せない、忘れっぽくなる、とっさの機転が利かないといった現象が出てくる。 年齢が上がるほど複雑なことはなかなか頭に入らなくなるので、シニア層をとらえるにはシンプルで分かりやすいことが肝心だ。あれもこれも出来ますと多機能をアピールするよりも本来的な機能に絞って使い方を簡単にした方が受け入れられる。特にPOPの文字の書き過ぎは禁物だ。重要なことがあれば説明するだけでなく書いて渡す、さらにあとから電話などで確認するといった配慮が必要だ。シニアに安心され、信頼を獲得するきっかけともなる。
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Information
松村 清 主な書籍
他
「サービスの心理学―心に染みるエピソード集」 |
「目からウロコ 販売心理学93の法則」 |
「ニューシニア(50歳以上)をつかまえろ!!」
「 売上げと利益を運ぶロイヤルカスタマー」 |
「最強のドラッグストア ウォルグリーン」 |
「 米国ドラッグストア研究」 (以上、商業界刊)。
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Excell-Kドラッグストア研究会
(
http://www.drugstore-kenkyukai.co.jp/)
Excell-K薬剤師セミナー、及びExcell-Kコンサルティンググループを率いる流通コンサルティング会社Excell-K(株)ドムス・インターナショナルの代表者。小売業、卸店、メーカーに対するコンサルテーションをはじめ、講演、執筆、流通視察セミナーのコーディネーターとして活躍。特にドラッグストア開発、ロイヤルカスタマー作り、シニアマーケティングのための実務と理論に精通し、指導と研究では第一人者。年間半年を米国で生活し、消費者の目・プロの目を通して最新且つ正確な情報を提供しながら、国内外における視察・セミナー・講演を精力的にこなす。
■レポートの中で事例として登場する「ウォルグリーン」は全米No.1のドラッグストア
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