ドラッグストア研究会 松村清 最新USレポート 弟32回 コンビニは衰退期に入ったのか?【健康美容EXPO】

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業界の第一人者である松村清がドラックストアの事例を交え「売る」極意を公開


第32回



「コンビニは衰退期に入ったのか?」

かつて小売業の最優良業態であったコンビニエンスストアが、その勢いを全く失い衰退期に入ってきたかと不安を感じさせる。私の専門分野であるドラッグストアと比較しながら話を進めてみよう。

1 ) コンビニエンスストアの状況

a)日本の状況

(株)日本フランチャイズチェーン協会(JFA)の発表によると、コンビニエンスストアの店舗数は2009年12月末で4万2629店と前年比2.2%伸びだが、売上げは全店ベースで7兆9043億円と辛うじて前年比プラス0.6%だ。また2010年3月度は前年同月比全店ベースでマイナス2.6%(9ヶ月連続のマイナス)、既存店ベースでマイナス4.9%(10ヶ月連続のマイナス)と惨憺たる状況だ。商業統計を見ても下記の通り2007年度の業態別シェアは5.2%保持しているが、2004年度vs.2007年度は1.2%しか成長していない。そのような状況下、ローソンの新浪社長は決算会見で既存のコンビニ(ブルー看板のローソン)は衰退期に入ったと明言した。


 

【日本の小売業の業態別年間商品販売額】

業種/業態

年間商品販売額(億円)

2007年

2004年

2007年構成比 (%)

2004年対比 (%)

百貨店
77088
80023
5.7
(3.7)
総合スーパー
74467
84064
5.5
(11.4)
専門スーパー
237961
241019
17.7
(1.3)
(内ホームセンター)
30459
31412
2.3
(3.0)
コンビニエンスストア
70069
69222
5.2
1.2
ドラッグストア
30126
25878
2.2
16.4
その他スーパー
59493
54806
4.4
8.5
専門店
539291
499703
40.0
7.9
中心店
257022
275785
19.1
(6.8)
その他小売店
1537
2286
0.1
(32.8)
小売業合計
1347054
1332786
100.0
1.1

2)不振の主な要因

a)少子高齢化の影響

日本は世界で類を見ないスピードで高齢社会に突入し、今では65歳以上の人が総人口の23%を占めている。既に始まった日本の人口減現象(2009年対比3800万人減少し、2055年には9千万人へ)の中で、50歳上の人口層は2009年で43%のシェアを持ち、2055年には60%とメジャー人口になってゆく。


【日本の人口推移】

 

市場規模(百万ドル) PB比率(%) PB比率(%) PB比率(%) 2055年
総数
12693万人
(100%)
12777万人
(100%)
12750万人
(100%)
11522万人
(100%)
8993万人
(100%)
0-14歳
1850万人
(14.6%)
1752万人
(13.7%)
1701万人
(13.3%)
1114万人
(9.7%)
752万人
(8.4%)
15-64歳
8638万人
(68.1%)
8409万人
(65.8%)
8149万人
(63.9%)
6740万人
(58.5%)
4595万人
(51.1%)
65歳以上
2204万人
(17.4%)
2567万人
(21.0%)
2901万人
(22.7%)
3666万人 (31.8%)
3646万人
(40.5%)
50歳以上
4892万人
(38.5%)
5527万人
(43.3%)
5529万人
(43.4%)
6225万人
(54.0%)
5404万人
(60.0%)

資料:2000年及び2005年は国勢調査、2009年、2030年及び2055年は国立社会保障・人口問題研究所推計

メジャー人口となるこの50歳以上の層は、他の層と比較すると裕福で、個人全純貯畜高の77%を保有している。これだけの数値を見ただけでも、企業成長のためにはこのシニア市場攻略が必須と言うのがお分かり頂けるだろう。しかしセブンイレブンジャパンの来店客調査によると、2008年度の1日1店舗当たりの平均客数は1013人だが、そのうち50歳以上というのはわずか26%で、全人口の44%と18ポイントも大きくかい離している。ターゲット客に50歳以上を取り込むことが必要だが、その対策があまり見られない。

項目

2008年度1日1店舗当たり
コンビニエンスストア
平均客数(A)

2009年10月1日現在
日本の人口(B)

差(A-B)

客数
1013人
127504千人
-
20歳未満
9%
18%
(9ポイント)
20-29歳
25%
11%
14ポイント
30-39歳
24%
14%
10ポイント
40-49歳
17%
13%
4ポイント
50歳以上
26%
44%
(18ポイント)

b)ドラッグストアに売上げを奪われるコンビニエンスストア業態

米国では1970年代からディスカウントストアやスーパーマーケットがドラッグストアの商材(調剤・OTC・化粧品)をライロビングしたことから、80年代に入ってドラッグストアの成長はスローダウンしてしまった。そのため80年代後半からドラッグストアは基本への回帰で「便利性」を重視した。そしてコンビニエンスストアを餌食業態(天敵業態はディスカウントストアやフード&ドラッグ)と位置付け、便利な立地、フリースタンディング、長時間営業、10分での買物を可能にする300坪程度の店舗サイズ、コンシューマブル商品(コンビニエンスフード&消耗雑貨)、待たせないレジやドライブスルー調剤などを強化し、コンビニのビジネスを奪う戦略を取った。その結果、ウォルグリーンが1店舗出店するとコンビニが4店舗も閉店すると言われるほどになり、コンビニ業態は停滞していった。米国業態別シェア(小売業トップ100社)では、09年にはドラッグストアは7.7%で、コンビニの4.4%を上回っている。コンビニの売上げの多くはガソリンということを考えると、物販という観点ではドラッグストアはコンビニの3倍近く売上げシェアを持っている。


景気イメージ

日本の場合もドラッグストアの成長とコンビニの不振に関連があることは間違いない。ドラッグストアは餌食業態としてコンビニを位置付け、専門性を強化することによりヘルスケアやビューティーケアを、そして便利性を強化することによりホームケアやコンビニエンスケアのカテゴリーの売上げを奪っていっている。そして現在の戦略は、コンビニチェーンと提携して、弁当や惣菜などのファーストフードやコピー、宅急便、商品券、乗車券、各種チケット、宝くじ、レンタル、宿泊券、クリーニングなどのサービスカテゴリーの充実を試みている。

 

【日本の小売業の業態別年間商品販売額】

日本のドラッグストアの
分野別商品構成比

部門

(%)

位置づけ

ヘルスケア
調剤
5.8
核部門
OTC
16.5
その他ヘルスケア
3.4
健康食品
2.8
ベビー用品
3.6
介護用品
0.1
ヘルスケア小計
32.2
専門店
化粧品
15.9
核部門
中心店
その他ビューティーケア
8.5
ビューティーケア小計
24.4
コンビニエンスケア
食品
19.7
補完部門
小売業合計
酒類
2.0
コンビニエンスケア小計
21.7
ホームケア
日用消耗品
12.3
補完部門
家庭用品
6.9
その他
2.5
ホームケア小計
21.7
合計
100.0

資料:HCI

3)ドラッグストアに対するコンビニの弱点

コンビニはドラッグストアから見ると意外と攻め易い存在なのだ。

a)高齢社会に対する対策不足

コンビニの中高年層に対する対策不足(店作り・品揃え・接客など)のため、中高年層になったかつてのコンビニ優良客がドラッグストアに奪われやすい

b)真似しやすい便利性

コンビニの絶対的武器である「便利性」をドラッグストアは重要な戦略の一つに取り上げ、便利な立地、長時間営業(今後多くのドラッグストアが24時間営業を展開)、便利な買い物、配達などを強化した。その結果、便利性におけるコンビニの優位性は少なくなり、便利性以外の武器を持ち合わせていないことがコンビニの他業態との戦いを苦しいものにしている。

c)専門性の不在

小売業はこれからの時代「街で一番」という絶対的に強い目的来店性のあるカテゴリーを持たなければ勝ち続けるのは難しい。かつてはGMSが幅広い品揃えで小売業の王者になった。しかし強いカテゴリーを持っておらず、「何でもあるけど、買うものが無い」ということで今では消費者が離れてしまった。逆にローカルのスーパーでも勝ち残っているところは「肉なら」「魚なら」「野菜なら」と「なら屋」と呼ばれる圧倒的に強いカテゴリーを持ち、カスタマーの頭の中に強く印象付けられている店が勝ち残っていることからも実証されている。ドラッグストアは薬局・化粧品店機能とコンビニエンスストア機能が合体した業態だ。HBC(健康美容商品)ならドラッグストアという「専門性」があり、その上での「便利性」だから、コンビニより強い立場にある。「専門性の強いカテゴリー」を持たないコンビニは戦うための武器不足状態だ。

d)限定された品揃え

コンビニは品揃えにおいて3000アイテム程度と限られているため、商品選択の余地が少ない。一方ドラッグストアは1万~2万アイテム揃えているから、選択する楽しさや、わざわざ時間をさいて行っても裏切られないという頼りになる買い物ができる。またコンビニは始終商品を入れ替えるため、今までの気に入った商品が無くなっていてがっかりするお客が多い。特に新しい物に飛びつかず気に入った商品を長く使う傾向があるシニアには「あてにならない店」という印象を与えている。

e)弱い価格競争力

コンビニで価格の安さを感じる人は殆どいない。この弱点を突いて、コンビニの近くに立地するドラッグストアは、同じ商品を10~20%安くすることによってコンビニより安いという印象を与えている。「Poor Need Discout, Rich Enjoy Discount」(貧乏人にはディスカウントが必要で、金持ちはディスカウントが楽しみだ)という言葉があるとおり、誰しもディスカウントを好む。ドラッグストアはコンビニが基本的にディスカウントをしない弱点を突いたのである。特にリーマンショック以後の不景気の中で価格を意識する消費者が増えたことはコンビニにとっては逆風だ。

f )心のつながりを作る接客の欠如

ドラッグストアは正社員(薬剤師、化粧部員、登録販売者、一般社員)や中年のパートの人も多く、顔なじみの従業員ができやすい。高齢社会においてお客は顔なじみの従業員と日常のおしゃべりをするのを好む。一方、コンビニは若い従業員がパートで働いている上に始終入れ替わっている。顔なじみが出来にくいため、気に入った従業員に付くロイヤルカスタマーを作りにくい。 又ドラッグストアは「Yes, I Canサービス」といわれる顧客の要望を極力受け入れるサービスを展開している。例えば、商品に関して「店頭に無い商品でもお取り寄せをいたします」というサインを貼付し顧客に積極的に呼びかけている。

4)迫られるコンビニエンスストアの高齢社会対策

コンビニエンスストアの再活性化のために高齢社会対策は必須だ。

a)成長する4つのマーケット

高齢社会において成長するマーケットは4つある。
①「ヘルスケアマーケット」
(セルフメディケーションのための薬、健康食品、スポーツケア、介護・看護用品、ヘルスフード等)
②「ダウンエイジングマーケット」
(年齢より若く見せるためのアンチエイジング化粧品、育毛剤、ヘアカラー等)
③「カンフォートマーケット」
(快適な生活を送るための食品・住宅・屋内・ガーデニング・ペット等)
④「エンジョイメントマーケット」
(モノより精神的充実のため旅・趣味・学習等)。

これら4つのマーケットのどれかを積極的に取り組むことが必須だ。特にコンビニには食品に対する専門性の強化(美味しい生鮮・惣菜・弁当等)による「簡便で美味しい食品ならコンビニ」というマインドシェア(消費者の頭の中に強く刷り込まれた度合い)の強化と、住宅改修・医療施設・ペット・ローン・引越し・習い事・タクシー・家事代行・買い物代行など専門会社と提携して「困ったときのコンビニ」といわれるような「よろず相談・解決機能」の提供も必要だ。

薬事

改正薬事法により、登録販売者を配置すればどの小売業もⅡ類、Ⅲ類のOTC薬を販売できるようになった。コンビニ業界もこの規制の緩和に興味を持ち実験しているが、成功しているという話を聞かない。長時間営業のためには4人程度の登録販売者(資格手当て3000円~5000円)を配置することになるがペイするか?継続的な教育ができるか?調査会社によるとOTC薬を扱って欲しい業態の1位にコンビニエンスストアが出てくる。しかしこれは調査のあいまいさで、消費者の答えの裏には「ドラッグストアが夜中閉店した後には必要」と言う言葉が隠れているのだ。OTC販売に余り期待し過ぎない方が良い。

b)バリアフリーの店作り

明るい照明、歩きやすい店内通路、見つけやすい売り場、選びやすくて取りやすい陳列などのエイジフレンドリー(シニアに対する優しい店)な店作りが必要だ。米国で評判なのが全米第二位のドラッグストアCVSドラッグだが、コンビニにも参考になるだろう。

 

イ) シニアに優しい売り場

イー1) ゴンドラは145cmと低く店内の見通しが良い。什器棚は斜めになり前出し陳列が自然に行われ、且つ車椅子の人でも見やすく取りやすい。

イー2) 分かりやすい売り場 ヘルスケアコーナーは若草色、ビューティーケアコーナーは水色、 食品コーナーは赤、雑貨及び家庭用品コーナーは濃い緑と、売り場は 色別にされているので分かりやすい。カテゴリーサインは歩く方向に 直角に貼付、POPの文字は大きく分かりやすい。

イー4) 従業員を呼び出せるように、各売り場にコールボタンを設置。 パッケージの説明を読みやすいように、売り場に簡易拡大鏡を設置。

イー5) 買い忘れを防ぐ関連陳列の徹底

c)中高年客に向いた接客

中高年の人々は店の感じや応対した人の態度に非常に敏感である。それは彼らが物事を判断するのに、左脳(論理の脳)より右脳(感情の脳)をより活用するようになるからである。そのため、感じの悪い店では買い物をしないで出ていったり、2度と戻ってこないことになる。逆に右脳に訴求して「何となく感じの良いお店」という印象を与えると、滞店時間も長くなり、店の機能を良く見ようとして固定客になってくれ、口コミさえ始めてくれる。シニアの3大問題は「孤独」「無力感」「退屈」だが、そのような問題の解決に役立てる店も求められている。そのためには中高年従業員の配置が必須だ。また「出来ることなら何でもいたします」という姿勢が大切である。自分のためにこんなに努力をしてくれているということは信頼につながる。特にシニア層の場合はその店を当てにしてきていることが多いから、「扱っておりません」とか「出来ません」といわれると失望感が大きいのである。一旦当てに出来るとなれば、彼らはいつまでもその店を利用し、出来る限りそこで買おうとするようになる。「Yes, I Canサービス」は重要である。

d)コンビニエンス・コンビニエンス・コンビニエンス

シニア

シニアにとって何故便利さが重要かというと、年令が高くなるほど義務的な買い物や遠出が面倒になるからである。そのため日常の商品については「近くの店」というのが重要になってくる。そして重い物を抱えて帰るのは嫌なので、配達という機能を求めてくる。高齢社会においては、消費者は「買い物に行く」と同時に、配達されて「買い物が来る」、レストランにおいては「食事に行く」と同時に、出前によって「食事が来る」という機能を求める。また家事代行サービス、ペットケア代行サービス、墓参り代行サービスなどのビジネスが出現するように、シニア社会ではエブリーデーコンビニエンスがキーワードになってくる。


コンビニがこれまで成功してきたビジネスモデルは転換期に来ている。コンビニ業界はまさに「Change or Die」つまり変化しなければ死を待つのみの状況に置かれているのかもしれない。

 

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松村清レポート
ドラッグストア研究会 松村清会長

Profile

Excell-Kドラッグストア研究会
( http://www.drugstore-kenkyukai.co.jp/)
Excell-K薬剤師セミナー、及びExcell-Kコンサルティンググループを率いる流通コンサルティング会社Excell-K(株)ドムス・インターナショナルの代表者。小売業、卸店、メーカーに対するコンサルテーションをはじめ、講演、執筆、流通視察セミナーのコーディネーターとして活躍。特にドラッグストア開発、ロイヤルカスタマー作り、シニアマーケティングのための実務と理論に精通し、指導と研究では第一人者。年間半年を米国で生活し、消費者の目・プロの目を通して最新且つ正確な情報を提供しながら、国内外における視察・セミナー・講演を精力的にこなす。


ウォルグリーン写真

■レポートの中で事例として登場する「ウォルグリーン」は全米No.1のドラッグストア


 
 

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