改正薬事法完全施行から3ヶ月が経過した。現場での大きな混乱は見られないが、「クスリ」をキーワードとした流通市場はうごめき続けている。異業種の本格参入で、激動するドラッグストアは、この荒波の中、どこへ舵を取るのか。日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)本吉淳一事務局長にその展望を聞いた。
これまでは問題なくきているようです。ただ原則、薬剤師になる情報提供が義務化された第一類医薬品については、売上面で影響が出ています。第一類のみに限定すると約3割の売上ダウンとなっています。第一類は医薬品売上全体の5%ですから、大きなダメージということはありませんが、今後対策が必要になってくると思います。要因としましては、販売時間・販売店の減少もありますが、育毛剤や水虫薬などが入っていますので、やはり対面では買いづらいことが影響したのではないかと考えられます。
今回の改正薬事法の議論においては、対面販売が原則となっており、そもそもインターネットでの医薬品販売というのはなかったという認識です。改正薬事法においては、一般用医薬品販売は店舗販売業と配置販売業の2つしかありませんから、まずはネットでの医薬品販売を訴える前にそのポジショニングを明確にすることが先決と考えています。それはそれとしましても、第一類の医薬品においてデリケートな商品ではあっても実店舗で「買いづらい」というものがあるのは、今後、ドラッグストアがさらに繁栄していく上で、克服すべき課題であると考えております。
現状ではまだそういったものはみられていないと思います。そもそも、ドラッグストアというのは、日用品なども扱い、地域に密着した店舗として拡大してきた歴史があります。その意味では、コンビニやスーパーは、もともと“ライバル”といえたでしょうし、改正薬事法により突如そうなった、という感覚ではありません。むしろ、そういった外的要因ではなく、改正薬事法はドラッグストアが次のステップへ進むためのいい意味でのハードルだと捉えています。
登録販売者を置けばスーパーやコンビニでもボリュームの大きい2類・3類の医薬品販売ができるという点では、業態としてドラッグストアとの違いが明確でなくなるかもしれません。一方で、薬剤師を擁するドラッグストアだからこそ、第一類医薬品を扱えるといえます。ここが大きな差別化のポイントとなってきます。ドラッグストアにおける薬剤師の役割を最大限に活かす大きなチャンスが、改正薬事法によって訪れた、ということです。第一類医薬品は薬剤師だけが販売できる医薬品です。そして、その第一類医薬品の拡大は、増え続ける医療費の削減につながると我々は考えています。薬剤師だけが対面で情報提供するとともに販売する第一類医薬品に、新たに生活習慣病関係の医薬品がスイッチされてくれば、大きな効果が期待できます。私どもは「セルフメディケーション」を推進していますが、その中心的役割を薬剤師が担う。単に薬を販売するだけでなく、お客様の生活などに関するアドバイスをおこない、“かかりつけのドラッグストア”として、地域での存在価値を一層高めていく。そういったことを実現するいい機会になるし、しなければいけないと考えています。また、第一類医薬品の販売強化という側面から、医療用医薬品から第一類医薬品へのいわゆるスイッチOTCを増やすため、海外事例の研究活動も積極的に行っております。
今後、スイッチOTC医薬品の市場投入が加速されることで、セルフメディケーションという考え方が国民に浸透してくると考えています。そのことで、ドラッグストアは、薬剤師・登録販売者などの活躍により、地域の健康管理拠点としての役割を増していきます。そうしたことなどにより、OTC市場は1兆円規模に拡大すると推測していますし、調剤機能も積極的に導入していこうと考えています。また、10兆円に到達するには、医薬品だけでなく健康食品やサプリメントも重要になってきます。私どもでは設立後まもなくから、ヘルスケアアドバイザーなど独自の認定制度を行なってきました。適切なアドバイスをすることでセルフメディケーションの一端を担い、健康食品・サプリメントはドラッグストアの主力商品として引き続き成長していくと考えています。ビューティーケアマーケットも然りです。また、登録販売者制度の創設で、これまで薬剤師不足でなし得なかった夜間営業の可能性も大きくなり、コンビニエンス需要により、上積みされる売上が3兆円と予測しています。
改正薬事法は、世界的に見ても、国民の健康づくりをサポートするすぐれた法律と思っています。この改正薬事法を「完全実施する」。それが、我々のまずはやらなければならないことと考えています。改正薬事法により、一般用医薬品販売の安全性は高まり、販売拠点も増え、国民にとっては店舗における購入の機会が増えることになりました。このことにより、OTCをメーンに扱うドラッグストアはその真価を問われる時代になったともいえるのではないでしょうか。再編や異業種との合体など、業界ではこれからもさまざまな動きが続くでしょう。しかし、国民の健康と美容に奉仕する専門業態といった本質がぶれる事はないと思います。ドラッグストアが地域に密着した「かかりつけドラッグストア」として、いかに進化できるか。それが、改正薬事法実施によりドラッグストアが求められる課題であり、またその成長曲線を描く上でのポイントとなると思います。
プロフィール
日本チェーンドラッグストア協会
(JACDS) 事務局長
本吉 淳一 (もとよし じゅんいち)
1997年4月に「ドラッグストア産業化推進実行委員会」事務局、同年11月、同委員会の発展的解消に伴い、新たに発足した「ドラッグストア産業化推進センター」事務局の運営に従事。1999年6月、その活動の延長線上で誕生した日本チェーンドラッグストア協会事務局に参加。その前進からJACDSに携わり、現在に至る。
【日本チェーンドラッグストア協会】
(通称・JACDS(ジェイエイシーディーエス)
=JAPAN ASSOCIATION OF CHAIN DRUG
STORES)
1999年6月16日設立。チェーン化を指向するドラッグストアの社会的な役割を果たす為に、1)健康産業としてのわが国のドラッグストア業態の産業化の推進2)ドラッグストア産業の具体的な発展、育成に必要な情報の収集・提供3)ドラッグストアを取り巻く生活者、産業界、行政に対する建議、提言を行い、国民の健康と豊かな暮らしに寄与することを目的とする。会長は㈱キリン堂 代表取締役会長兼社長 寺西 忠幸。以下、56名の役員(理事・監事)が活動中。重要案件を検討する常任理事会のほか、12の委員会があり、執行組織の事務局が実質的な活動を行っている。会員(2009年6月1日現在)
は正会員(ドラッグストア、他小売業)190社、賛助会員(メーカー、卸、ストアサポート企業他)228社、個人会員38名、学校会員35校。
ドラッグストア業界は再編の嵐が吹き荒れている。背景には、改正薬事法による“規制緩和”に伴うスーパー、コンビニなどの異業種の医薬品販売スタートがある。新たなライバル出現で、激化する市場にあって効率化は必然で、ドラッグストア業界は離合集散が続く。そうした中、最大手・マツモトキヨシがコンビニ業界2位のローソンと業務提携し、事態はさらに混迷の度を極めている。今後は、「ドラッグストア」、「異業種」、さらにその「融合業態」など、多様な業態が入り混じり、人材交流なども含め、ドラッグストア業界は、新たなステージへと進むことになりそうだ。