第2回レポート の続き
ドラッグストアが存在する価値とは何か?それはヘルスケアの「専門性」である。それこそがドラッグストアのコアコンピテンスだ。専門性を打ち出すためには調剤の強化が不可欠だ。医薬分業が遅れた日本でも、近い将来必ず調剤薬がドラッグストアの核部門になり、地域住民の信用や信頼を勝ち取る武器になる。
ウォルグリーンの場合ヘルスケア(調剤薬+大衆薬)とビューティケアの売上げ構成比は1982年には全体の41%で雑貨や食品が残りの59%を占めていた。しかし2006年現在ではヘルスケア&ビューティーケアの構成比が80%を超えている。つまり以前はジェネラルストアであったが、ウォルマートやコンビネーションストアの台頭によりジェネラルストアフォーマットでは勝てないと判断したウォルグリーンは、調剤を初めとするヘルスケアやビューティーケアを強化した。
商品割合の比較
項目 |
1982年(%) |
2006年(%) |
差(%ポイント) |
---|---|---|---|
調剤薬 |
16 |
64 |
+48 |
大衆薬 |
13 |
11 |
-2 |
化粧品/トイレタリー |
12 |
25 |
-46 |
ジェネラルマーチャンダイズ |
33 |
- |
- |
たばこ |
6 |
- |
- |
リカー・清涼飲料水・スナック |
20 |
- |
- |
合計 |
100 |
100 |
0 |
現在ウォルグリーンはヘルスケアの専門性を高めるために、ドラッグストア店舗を中心に次のような分野まで広げ且つ掘り下げている。
ドラッグストアが品揃えの主力とするヘルス&ビューティーケアの商品は、日本においても他の業態が今後は積極的に品揃えをする。その場合差別化の鍵になるのが「専門性」「接客性」と、そしてドラッグストアの「利便性」だ。ウォルグリーンにとり、ディスカウントストアやコンビネーションストアと戦う為には「利便性」が大きな武器になっている。
入りやすく出やすいフリースタンディング立地が全店舗の86%以上(95年度はわずか31%)を占めるようになった。24時間営業店舗は全店舗の29%(95年度は15%)の1578店舗にのぼり、これは全米24時間調剤店舗の65%のシェアを占める。店舗総数の84%の4562店舗でドライブスルー調剤機能を持ち(95年度は21%)、97%の店で1時間現像の機能を持つ(95年度は8%)。またコンビニエンスフードの品揃えは、間に合わせ食品の利便性要望を満たしている。
調剤薬やデジタルプリントはインターネットで注文し店でピックアップするという傾向が増加しているが、忙しい人にとって大きな利便性の提供になっている。最近のウォルグリーンはコーヒーやファストフードを提供するキオスクの設置、パソコンプリンターのインクリフィルジェットサービス、宅急便の取り扱い、車、教育、住宅などのローンの取り扱い、そしてホームオフィスサービスなどを実施し利便性を高めている。また関連陳列のアイディアは常時500用意され、店舗では商圏にあった関連陳列を実施しているが、忙しい客に喜ばれている。
店舗スタイルの変遷
店舗機能 |
2006年 |
% |
2005年 |
% |
---|---|---|---|---|
総店舗数 |
5461 |
100 |
4985 |
100 |
フリースタンディング店舗 |
4697 |
86 |
4160 |
83 |
24時間店舗 |
1578 |
29 |
1534 |
31 |
1時間現像機能店舗 |
5285 |
97 |
4880 |
98 |
ドライブスルー調剤機能店舗 |
4562 |
84 |
4085 |
82 |
店舗当り売場面積 |
309坪 |
- |
311坪 |
- |
利便性の強化により、ウォルグリーンが1店舗オープンするとコンビニエンスストアは4店舗つぶれると言われるようになった。小売業トータルの売上げが伸びないで逆に減少する時代において、他の業態を餌食にすることが成長につながるが、日本でも利便性を強化することによりコンビニエンスストアの売上げを食っていくことが肝要だ。
日本の場合ドラッグストアの接客は全ての小売業の中で一番遅れているように感じる。接客サービスの充実を図らない限り、他の業態に顧客を奪われていくのは目に見えている。「価格は一日、品揃えは三日で真似できるが、サービスは一生真似できない」と言われるように、接客サービスは究極の差別化ポイントなのだ。ドラッグストアの接客は他の小売業と違うのだ。それは病や孤独で元気の無い人が店を後にするときに、店に入ってきた時とは段違いの元気さを持って店を出られるかどうかなのだと友人の薬剤師は述べる。「来店した顧客を店舗の顧客と思うな。我が家にいらした大切なお客様と思いなさい」。自分の家に訪問してくれた子供の恩師であれば、名前を呼び笑顔で挨拶をし、もてなすはずである。それと同じように店のお客に接することがウォルグリーンの企業文化になっている。それを具体的に現場で実践するために「7つのサービス規範」がある。
また顧客満足を向上させるためにフラッグシップストアプログラムを実践している。これは顧客満足に優れた20%の店舗が4半期に一度フラッグシップストアとして選ばれる。名誉となるバッジが与えられ、店舗のフルタイムに50ドル、パートタイム社員に30ドルのウォルグリーンクーポン券が与えられる。ウォルグリーンの薬剤師が主人を亡くしたお客様と一緒に涙を流しているシーンを店内で見たとき、お客の気持ちが分かる本当の接客のプロという印象を持った。
企業の成長にとって一番大切なロイヤルカスタマー作りのために絶対欠かせないのが、モチベーションの高い従業員作りだ。「ロイヤルエンプロイーがロイヤルカスタマーを創る」という考えの下に従業員を非常に大切にしている。ウォルグリーンの社員がいかに幸せに働いているか、それを示すバロメーターがある。それは勤続年数が米国としては異例なほどの長さで、現在の幹部はほとんどが学校を卒業してすぐウォルグリーンに入社し20~30年以上働いている人たちだ。従業員の出入りの激しい企業で成功した企業は少ない。日本の小売業の中には社員を使い捨てのコマのように考え、ある年齢に達すると人件費が高まるため辞めさせる方向に持ってゆく企業がある。確かに一時的な経費削減にはなるが、社員のロイヤルティを損なうデメリットの方が大きい。社員は資産であると考え、その価値を高めるような教育が必要だ。また企業運営への参画、積極的な権限委譲、適切な評価と褒める企業風土がモチベーションを上げるために必要だ。
利益が上らなければ、お客様に十分なサービスが出来ないし、社員に報酬が払えないからモチベーションを高められない。地域社会に貢献することも出来ず、株主還元も出来ない。「利益は満足したことに対するお客様からのご褒美だ。だから利益の無い経営は罪悪だ」と言う考えがウォルグリーンには浸透している。ウォルグリーンは全体で粗利益を28%(調剤が23%、セルフ売り場が37%の粗利益率)取ることにより、営業利益6%弱を可能にしている。
ドラッグストアとは何か?米国の定義で言えば「調剤薬・健康美容商品を中心に、且つ便利性のある商品を品揃えし、カウンセリング機能を持ったセルフサービスのヘルスケアリテーラー」である。日本のドラッグストアも米国のようにこの定義を満たすコンビニエンスドラッグ型のタイプに集約されるだろう。
日本で主流になると予測されるドラッグストアのスタイル
項目 |
ポイント |
---|---|
スタイル |
コンビニエンスドラッグ |
位置づけ |
(1)便利な健康・美容及び快適生活創造店 |
(2)デイリーストア(週に複数回来店してもらえる店) | |
(3)30分ストア(来店に10分、買い物10分、帰るのに10分) | |
基本戦略 |
(1)専門性:ヘルス&ビューティーの専門性 |
(2)利便性:10分の小商圏(商圏人口1~2万人)/アクセスの便利な立地/クリック&モルタル(店舗及びネットでの買い物/10分での買い物(90~300坪)/長時間営業/クイックショッピングを可能にするレイアウト及び陳列/ドライブスルー | |
(3)接客性:フレンドリーな接客、顧客の立場でのカウンセリング | |
イメージ戦略 |
(1)「ヘルスケアの信頼」というブランド構築 |
商品戦略 |
(1)核商品:ヘルスケア(調剤含む)及びビューティーケア |
(2)補完商品:ホームケア(日用品・家庭用品)/コンビニエンスケア(食品) | |
売上げ・利益戦略モデル |
(1)年間店舗当り最低売上高:4億円 |
(2)粗利益率:28% | |
オペレーション |
地域密着のための店舗権限強化 |
従業員 |
ES(従業員満足)を通してのCS(顧客満足) |
米国では自分が贔屓にするドラッグストアのことを“My Drugstore”と呼ぶ。「敬愛するドラッグストア」という意味だ。米国で成功したウォルグリーンを学ぶことによって、日本のドラッグストアも地域のお客様から「マイドラッグストア」と呼ばれる存在になってほしい。
プロフィール
Excell-Kドラッグストア研究会(http://www.drugstore-kenkyukai.co.jp/)、Excell-K薬剤師セミナー、及びExcell-Kコンサルティンググループを率いる流通コンサルティング会社Excell-K(株)ドムス・インターナショナルの代表者。小売業、卸店、メーカーに対するコンサルテーションをはじめ、講演、執筆、流通視察セミナーのコーディネーターとして活躍。特にドラッグストア開発、ロイヤルカスタマー作り、シニアマーケティングのための実務と理論に精通し、指導と研究では第一人者。年間半年を米国で生活し、消費者の目・プロの目を通して最新且つ正確な情報を提供しながら、国内外における視察・セミナー・講演を精力的にこなす。
日本コカ・コーラ(株)、ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)を経て独立('90)。慶応義塾大学卒(法学)、ミズリ―バレーカレッジ卒(経済)、サンタクララ大学院卒(MBA)。東京都出身。
■全米No.1のドラッグストア ウォルグリーン