スーパーマーケットなら青果、ドラッグストアなら化粧品、ディスカウントストアならアパレルがそれに該当する。それぞれの業態によって、衝動性が最も高い商品群を入り口付近、つまり買い物のスタート時点に配置するのである。また、自店の核商品を入り口付近に配置する。その商品を見て、お客は何屋であるかを判断するからである。購買行動に入る最初の場面で見た商品は、お客の心理をフレーミング(枠組み)し、その日その店でする買い物全部に影響を与える。衝動買いからスタートすると、お客の気持ちに衝動買いに対するフレーミングが出来、その後の買い物でも衝動買いに違和感を覚えなくなる。その上衝動買いは、他店と比較して買う性格の買い物ではなく、価格意識も低いので、店にとっては利益が大きい。逆に、目的買い商品は事前に他店と価格を比べる傾向があるので、価格志向が強く、利益はあまり取れないのである。
下表に示すように、お客の非計画購買(店に来てから決める衝動買い)は高い割合を占めている。女性の社会進出など、自由時間が少なくなるほど衝動買いの傾向は強まってきている。
非計画購買の割合
買い物の性格 |
比率 |
店舗への貢献 |
計画購買 |
30~40% |
店にお客を運ぶ |
非計画購買 |
60~70% |
店に利益を運ぶ |
非計画購買こそが店に利益を運んでくれる。計画購買は、店にお客を運ぶ「トラフィックビルダー」の性格と店内を回遊させる性格がある。しかし、価格を念頭において来店する購買行動なので、利益を取りづらい。
例えばファッション店でいえば、ファッションの非日常性からスタートして、下着や靴下などの日常品へ向かう流れである。非日常性でフレーミングした場合、購買行動において日常商品にも関心が向くが、日常商品でスタートしてフレーミングした場合、お客はファッション商品等の非日常商品に意識が向かわない。いったん日常商品でフレーミングされたお客の気持ちは、化粧品という夢の世界の商品に関心が向かわなくなる。そのためリピート客が97%を占めるというディズニーランドで、芝生の上で物を食べたり、食べ物の持込を禁止しているのは、非日常性の遊園地で日常性を高めるとわくわく感が減少しリピート率が減少するという理由からだ。
また日常生活用品を販売する店では「高い」という印象を与えてはいけない。入り口近くには中間価格の商品、第一主通路の真ん中には高額品、店奥にはお客を引き付けるディスカウント商品を置くと良い。店頭に低価格の商品を置くと、お客はその意識で買い物に入り、安い商品のみを追いかけるようになる。逆に入り口付近に高い商品を置くと、お客の意識がそこでフレーミングされ、全ての商品が高額品というイメージを抱き、敷居が高くなってしまうのである。このように、お客の意識は最初に見たり接したりする商品群によってフレーミングされ、その後の購買行動が決まってしまうのだ。先日テレビでショーウインドウ効果の面白い実験をやっていた。アパレル店で18,000円、20,000円そして22,000円の商品のどれをショーウインドウに飾るのが一番売上げに効果があるかという実験だ。22,000円のドレスを飾ると、お客はその金額にフレーミングされ、店内の他の商品が安く見えて売上げが上がるという結果だった。
衝動買いの最も高いビューティーケアゾーンからスタートし、計画購買性の強いヘルスケアゾーンへと移行、そして最後に極めて衝動性の高いフィルムやバッテリー、たばこ、カセットテープなどの雑貨ゾーンへつながるように売り場が作られている。なお、ウォルグリーンの場合は、商品の60%は衝動買いで購入されるように仕組まれており、その結果、調剤薬を除いた商品の粗利益率は36%と高い。
人間の買い物意欲は、時間の経過とともに低減する。集中力が欠如し、疲労し、時間に追われるなどして脳の判断力が低下していくからである。従って買い物の初期・中期には判断力を要とする商品にスペースを与える必要がある。例えば、嗜好性の強いものや化粧品、ファッション商品、青果、生鮮の提案陳列、テーマ陳列、あるいは季節商品、価格の高い商品(入り口近くに置くと敷居の高い店になるので注意)などである。業績不振のドラッグストアを見ると、入り口からその店の主力商品ではないディスカウントのトイレットペーパーや洗剤や食品が置かれているが、これらはお客の判断力を必要としない商品である。そして、肝心の判断力を必要とする主力の化粧品や薬を買い物の終盤に配置しているから、その時点では、お客の買い物意欲はすでに減退していて関心を示されなくなっている。
米国のスーパーマーケッット、ボンズパビリオンでは入り口付近と第一主通路の壁面の陳列スペースに青果を配置し、主通路を挟んだところに惣菜を置いている。第二主通路に肉や鮮魚売り場を配列しているのは、判断力を要する嗜好性の強い商品だからだ。そして乳製品へと続き、買い物終盤の第三主通路には清涼飲料水やビールという、どちらかというと商品の選択に余り頭を使う必要の無い商品を配置している。ドラッグストアの場合も、第一主通路にビューティーケアという嗜好性の強い判断力を要する商品を置き、第二主通路には大衆薬や調剤を含んだヘルスケア商品という判断力を要する商品を配置している。そして第三主通路にはコンビニエンスケア商品の食品、第四主通路には便利性の高い雑貨という、こだわりの少ない判断力を要しない商品を置いている。ウォルマートでも、最初に女性用アパレル、子供用アパレルを置き、買い物の中盤に宝飾品を配置している。
多くのスーパーマーケットやドラッグストアでは3人以上お客が並んだら新しいレジを開く。またウォルマートやスーパーマーケットのクローガー等ではセルフレジを採用しており、待つのが嫌なお客には好評で、店側もレジの人件費が軽減されるので双方にメリットがある。スーパーマーケッとのスチューレオナードでは、レジが込み合ってきたら従業員が試食品をレジ待ちのお客に提供し、「待たされている」という意識を薄めようとしている。またレジ係はお客に対して次のことを実行するよう教育されている。
どのように素晴らしい店作りや品揃え、価格であっても、買い物の最終場面のレジ前の陳列、整理整頓、接客応対によって、お客は店に対する決定的な印象を持ち、再度来店してくれるかどうかが決まるからである。心理学で「残存効果」という言葉で表現されているものであるが、人間は最後に見たり聞いたりしたものが強い印象を残すことを意味している。「終わりよければすべて良し」というのも、残存効果を意味している。
プロフィール
Excell-Kドラッグストア研究会(http://www.drugstore-kenkyukai.co.jp/)、Excell-K薬剤師セミナー、及びExcell-Kコンサルティンググループを率いる流通コンサルティング会社Excell-K(株)ドムス・インターナショナルの代表者。小売業、卸店、メーカーに対するコンサルテーションをはじめ、講演、執筆、流通視察セミナーのコーディネーターとして活躍。特にドラッグストア開発、ロイヤルカスタマー作り、シニアマーケティングのための実務と理論に精通し、指導と研究では第一人者。年間半年を米国で生活し、消費者の目・プロの目を通して最新且つ正確な情報を提供しながら、国内外における視察・セミナー・講演を精力的にこなす。
日本コカ・コーラ(株)、ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)を経て独立('90)。慶応義塾大学卒(法学)、ミズリ―バレーカレッジ卒(経済)、サンタクララ大学院卒(MBA)。東京都出身。
■全米No.1のドラッグストア ウォルグリーン