ドラッグストア業態の人々は、このような他の業態の恐さを十分認識しなければならない。 小売業先進国である米国のケースを見てみると、ドラッグストアで恐いのは価格で勝負する「ディスカウントストア(スーパーセンター、ホームセンターやホールセールクラブを含む)」と、デイリーな商品のワンストップショッピング機能を武器にする「フード&ドラッグのスーパーマーケット」だ。GMSのドラッグストアの取り込みはそれ程脅威にならない。ヘルスケア商品は「緊急のとき手を伸ばせば届くところにあるドラッグストア」というように、身近なところにあってしかもクイックショッピングを可能にするという便利性が必須だ。その意味でGMSは商圏的にも叉クイックショッピングという点でも欠けているからだ。
「30坪スタイルのコンビニエンストア」は、品揃えに限界があること、また自給1500円と通常のパートの2倍弱の登録販売者を複数人常時配備しなければならない経済的負担があることで、コンビニでの薬の需要が高まるのはドラッグストアが店を閉めた夜10時以後~朝9時までの時間帯で、それ以外の時間は人々はドラッグストアで購入するだろうとの理由で余り脅威にならない。叉「100坪スタイルのコンビニとドラッグの融合タイプ」では、店舗サイズの拡大が便利性を失わせることや、登録販売者のコスト上の問題、便利性を強化したドラッグストアとの競争の問題等でその競争力は疑わしい。
「ドラッグストアにコンビニエンスストアを入れたスタイル」は、便利性の強化と言うことで活躍するだろう。なお、他の業態がドラッグストアのビジネスに手を出したときに起きる大きな問題の一つは、薬剤師や登録販売者が顧客の相談を受けたり書類を書いたりしている姿は、他の部門の従業員に比べて楽そうにしているように映り、店長が不用意に注意を与えたり他の従業員から妬みの目で見られることだ。その結果彼らは辞めていったり、チームワークが取れないことがあるだろう。
さて、ドラッグストアビジネスに参入してくるこうした怖い他業態に対して、ドラッグストアはどのように戦ったらよいかについて考えてみよう。
ドラッグストアが存在する価値は何か?それはHBCの「専門性」である。それこそがドラッグストアのコアコンピテンスだ。専門性を打ち出すためには、まず調剤の強化が不可欠だ。医薬分業が遅れた日本でも、近い将来必ず調剤薬がドラッグストアの核部門になり、地域住民の信用や信頼を勝ち取る武器になる。叉Ⅰ類、Ⅱ類、Ⅲ類に属するOTCやビューティーケアの充実した品揃え、薬剤師、管理栄養士、登録販売者、コスメティシャンによる優れたカウンセリングなど、「ソリューション機能を高めた専門性」を備えることが重要だ。長期的に見た場合、登録販売者のみで店を運営するというスタイルのドラッグストアは、他の業態にビジネスを奪われていく可能性が高い。
ドラッグストアがマスマーチャンダイザーやフード&ドラッグと戦う強い武器の一つは「便利性」だ。ディスカウンターは低価格を提供するためにローコストオペレーションが絶対条件であるため、良くない立地や大きな店舗サイズとなり便利性に欠ける。フード-&ドラッグも店舗サイズが大きいために便利性を欠く。ドラッグストアの便利性としては、入りやすく出やすい立地、クイックショッピングを可能にする店舗作り、待たせないレジ、長時間営業、ドライブスルー調剤機能、コンスーマブル商材(コンビニエンスフード&消耗雑貨)の品揃え、ネットショッピング機能、配達サービス、ATM、宅急便取り扱い、各種チケットの販売などのサービス機能の強化が求められる。米国では便利性の強化により、90年代ドラッグストアが1店舗オープンするとコンビニエンスストアが4店舗つぶれると言われた。小売業トータルの売上げが伸びない時代には、他の業態を餌食にすることが成長につながるが、日本でも便利性を強化することによってコンビニエンスストアの顧客を奪うことも考えなくてはならない。
日本の場合ドラッグストアの接客は小売業の中で一番遅れているように感じる。接客サービスの充実を図らない限り、他の業態に顧客を奪われていくのは目に見えている。「価格は一日、品揃えは三日で真似できるが、サービスは一生真似できない」と言われるように、接客サービスは究極の差別化ポイントなのだ。
【ホスピタリティ向上運動一年後の結果】
項 目 | 結 果 |
来店客数 | 1.5倍 |
売上額 | 32%アップ |
クレーム | 1/3 |
万引き | 激減 |
固定客の増加により売上げも上ったが来店客数も1.5倍伸びた。接客の向上は口こみなどで顧客を増してくれるのだ。
プロフィール
Excell-Kドラッグストア研究会(http://www.drugstore-kenkyukai.co.jp/)、Excell-K薬剤師セミナー、及びExcell-Kコンサルティンググループを率いる流通コンサルティング会社Excell-K(株)ドムス・インターナショナルの代表者。小売業、卸店、メーカーに対するコンサルテーションをはじめ、講演、執筆、流通視察セミナーのコーディネーターとして活躍。特にドラッグストア開発、ロイヤルカスタマー作り、シニアマーケティングのための実務と理論に精通し、指導と研究では第一人者。年間半年を米国で生活し、消費者の目・プロの目を通して最新且つ正確な情報を提供しながら、国内外における視察・セミナー・講演を精力的にこなす。
日本コカ・コーラ(株)、ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)を経て独立('90)。慶応義塾大学卒(法学)、ミズリ―バレーカレッジ卒(経済)、サンタクララ大学院卒(MBA)。東京都出身。
■全米No.1のドラッグストア ウォルグリーン
関連リンク