店を判断するとき、お客は無意識に商品価値・便利性価値・サービス価値・雰囲気価値・価格価値の総合価値で判断している。ウォルグリーンの調査では、価格だけで店を選ぶ人は19%程度だという。残りの81%の人々は総合価値で判断しており、価格は選択の一つの要素でしかない。ラーメン屋にしても、流行っている店は決して価格が一番安いからというわけではない。総合的価値から見て、価格がリーズナブルな店だ。業態によって差はあろうが、一般的には価格格差の許容範囲は10~15%である。それ以上差がある場合は、他の価値が高くても、お客は価格の安い店を選択する。
価格は相対的なものである。相対的な価格には「外的参照価格」と「内的参照価格」がある。「外的参照価格」とは、ディスカウントストアならば通常の店の価格、PBやローカルブランドならばNBの価格、さらに自店ならば競合店の価格などだ。お客が「とても高い」「高い」「ちょっと高い」「安い」「とても安い」といった判断基準にするのは、自分の外的及び内的参照価格との比較だ。
ホールフーズマーケットやブリストルファームといったこだわりスーパーの価格は、普通のスーパーマーケットよりも15%程高い。ウォルグリーンの健康美容商品はウォルマートよりも20%以上高い。スターバックスのコーヒーは、マックのコーヒーよりも高い。百貨店の惣菜はスーパーマーケットよりも高い。それでもお客は納得して買っている。つまり店の総合価値に比して価格が値ごろであると判断されれば、「外的参照価格」よりも多少高くてもお客は買うということだ。
「内的参照価格」とは、お客の経験に基づく価格である。お客は、自分の過去の経験から割り出した価格よりも安い場合には、お買い得と判断する。米国のメーカーや小売店は、出来るだけお客に「内的参照価格」を作らせないように努めている。作られるとそれが基準価格になり、それより高い場合消費者は買わなくなるからだ。例えばジョンソン&ジョンソンやP&Gのような一般消費材メーカーは、自社の商品を販促するとき、ディスカウント戦略を取りたがらない。それはメーカー自らが価格を下げると、お客に「内的参照価格」ができ、ディスカウント価格でしか売れなくなるからである。その代わりに、増量パッケージ(量でおまけ)をして「内的参照価格」を作らせないようにしている。また小売店の場合、「2個目50%引き」「3個目無料」などがその例に当る。そうすることにより、お客の頭の中に「内的参照価格」を作りにくくしているのである。百貨店などでバーゲンでないとお客が買わなくなっているとすれば、それはバーゲンの価格がお客の「内的参照価格」になっているからだ。
お客は価格に何を求めているか?米国チェーンストアエイジによる消費調査によると、1位は「価格がよく見えること」だ。お客は非常に警戒心が強く、価格が見にくい場合は商品を買いたがらない。
まさに「Noプライス = Noセールス」だ。
【消費者の価格意識】
要望順位 | 事柄 |
1位 | 価格が見やすい |
2位 | 信頼できる価格(人為的に操作されていない) |
3位 | 最低価格で購入したときに感じられる価格設定 |
4位 | セール時に安く購入できる |
5位 | 一貫した価格設定がなされている |
6位 | トップブランドを安く買える |
6位 | 価格の幅があり、財布の都合で購入できる |
資料:米国チェーンストアエイジによる消費調査
2位は「信頼できる価格」である。インスタントコーヒー、ビスケット、アイスクリーム、キャンデー、ラップ、歯磨きなどで、好みのブランドが明確で買い物が習慣化している商品の場合、お客は自分の購買行動に余り注意を払わない。
そして希望の商品を購入するのに約10秒しかかからない。そのため、価格の小さな変化には気づかない。
価格は許容範囲内ならば「信頼できる」と受け取られるのだ。
百貨店のノードストロームでは、価格の信頼性を維持するために、購入した商品が2週間以内にディスカウントされた場合、定価で購入したお客に差額を返金するという「差額補償」を実施している。ウォルマートはエブリデーロープライス(EDLP)戦略を進めた。常に最低価格ではないかもしれないが、継続的に低価格で販売することによってお客の信頼を勝ち取った。
米国のコンサルタントのフレッド・クロフォードとブライアンマシューズがウォルマートの価格調査を行った結果、次のことが明らかになった。調査対象の商品の3分の1は競合店よりも高かった。また、競合店より安い商品の場合、どれくらい安いかを調べたところ、お客は1品目当たり0.14~1.62ドル安いだろうと推測したが、実際は平均して0.37ドルしか安くなかった。そのうち、3分の1の商品は0.02ドルしか安くなかった。その上、同じ商品であっても、洗剤のTIDE100オンスがヒューストン店では7.32ドル、シカゴ店では6.27ドル、ソルトレークシティー店では4.48ドル、デトロイト店では4.48ドルと場所によって価格が違っていた。地域の競合状況によって価格を柔軟に決めていることが分かった。
また、米国では価格に対する信頼性という意味で、「正確価格保証」を行っている店が増えている。それだけレジでスキャンされる金額と店内表示価格が違っているということである。この保証で、レジでスキャンされた価格が店内表示価格より高かった場合はその商品を無料にし、安かった場合は安い価格のままで提供している。
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ディスカウントの販促効果を高めるには、対象商品は出来るだけNB商品にした方がいい。PB商品やローカルブランド商品では効果が少ない。何故ならPBやローカルブランド(LB)は価格が余り知られておらず、NB商品は知られているからだ。また、普段そのNBを使っているお客に加え、他のNBやPB、LBを使っているお客が購入するからである。一方、PB商品のディスカウントが効果を上げないのは、NB商品の購入者は、安いからといってPB商品を買わないからである。長期にわたるNB商品のディスカウントは、お客の「内的参照価格」を下げ、定番価格を「高い」と認識させることになるので要注意である。またブランド価値も崩すことになる。
ディスカウント販促をする場合、金額表示がよいのか、それとも率表示がよいのかは、NBか、PB・LBかによって異なる。一流のNB商品は、お客の記憶の中に「内的参照価格」があるから、金額表示が効果的である。米国のスーパーマーケットやドラッグストアは、ケロッグやコカ・コーラなどのNB商品をディスカウント販促するときは金額表示で行う。逆に、PB・LB商品は「内的参照価格」が確立していないことが多いので、率表示が効果的である。また、ファッション商品のような価格が分かりにくい商品は、率表示の方が訴求力がある。
実際ドラッグストアはPBのビタミン剤を売るときには、2個を1個の価格で購入できるという訴求方法を取っている。これは、PBの場合「内的参照価格」がお客の頭の中に入っていないから、金額表示より個数表示や率表示の方がインパクトが強いからである。クラフトショップで全米一のマイケルズのチラシは、ほとんどの商品がディスカウント率で表示されている。また、ブルーミングデールなどの百貨店が全社的にディスカウント販促する場合は、率表示のチラシが多い。これは、ファッション品の場合価格が様々であるためでもあるが、店全体で在庫を一掃し、次のシーズンを迎えるという印象をお客に与える効果も狙っている。
プロフィール
Excell-Kドラッグストア研究会(http://www.drugstore-kenkyukai.co.jp/)、Excell-K薬剤師セミナー、及びExcell-Kコンサルティンググループを率いる流通コンサルティング会社Excell-K(株)ドムス・インターナショナルの代表者。小売業、卸店、メーカーに対するコンサルテーションをはじめ、講演、執筆、流通視察セミナーのコーディネーターとして活躍。特にドラッグストア開発、ロイヤルカスタマー作り、シニアマーケティングのための実務と理論に精通し、指導と研究では第一人者。年間半年を米国で生活し、消費者の目・プロの目を通して最新且つ正確な情報を提供しながら、国内外における視察・セミナー・講演を精力的にこなす。
日本コカ・コーラ(株)、ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)を経て独立('90)。慶応義塾大学卒(法学)、ミズリ―バレーカレッジ卒(経済)、サンタクララ大学院卒(MBA)。東京都出身。
■全米No.1のドラッグストア ウォルグリーン
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