日本は世界で類を見ないスピードで高齢社会(65才以上の人口が総人口対比14%以上)に突入し、今では65歳以上の人々が総人口の21%を占めている。そして今後この国では2055年に向かって少子高齢化が続き次のような現象が表れる。
日本の人口は2005年対比3800万人減少し、2055年には9千万人へ
2005年対比唯一増加するのは65才以上で、2055年には41%のシェアへ
2030年までは増加するが、その後はわずかだが減少し54百万人へ。シェアは増加し 60%のメジャー人口層。
日本の人口推移
2000年 | 2005年 | 2030年 | 2055年 | |
総数 | 12,693万人 (100%) |
12,777万人 (100%) |
11,522万人 (100%) |
8,993万人 (100%) |
0-4才 | 1,850万人 (14.6%) |
1,752万人 (13.7%) |
1,114 (9.7%) |
752 (8.4%) |
15-64歳 | 8,638万人 (68.1%) |
8,409万人 (65.8%) |
6,740万人 (58.5%) |
4,595万人 (51.1%) |
65才以上 | 2,204万人 (17.4%) |
2,567万人 (21.0%) |
3,666万人 (31.8%) |
3,646万人 (40.5%) |
50才以上 | 4,892万人 (38.5%) |
5,527万人 (43.3%) |
6,225万人 (54.0%) |
5,404万人 (60.0%) |
資料:2000年及び2005年は国勢調査、2030年及び2055年は国立社会保障・人口問題研究所推計
メジャー人口となるこの50才以上の層は他の層と比較すると裕福で、個人全純貯畜高の77%を保有している。これだけの数値を見ただけでも、企業成長のためにはこのシニア市場攻略が必須と言うのがお分かり頂けるだろう。
それでは、これらの特徴を持つニューシニア市場の中で、特に有望な4つのマーケットをご紹介しよう。
高齢化の進行に伴って、今のままの制度では現在の32兆円の医療費は間違いなく増え続け、100兆円を軽く超えると予測されている。それを抑制する方法として、自分の健康は自分で守るというセルフメディケーションの促進によりヘルスケア市場が成長する
女性の方が男性より長生きのため、高齢化が進むほど女性人口シェアが高まる。つまりこれからのシニア社会は女性が主役で、同年代の男性よりはつらつとして行動的である。そして若さに対する希求が非常に強い。マリリンモンローの有名な言葉に「私は女です。女をエンジョイしています。」という言葉があるが、今のシニアの女性は死ぬまで女としての美しさを追求している。そのため男性も含めてアンチエイジングやダウンエイジング商品市場が拡大する。
人間は50歳を過ぎると、今までの人生を頑張って生きてきた自分を誉めてやりたくなる。そしてその自分に快適さを与えるのは頑張りに対するご褒美であると考えるようになるので、快適家庭生活を提供するホームファッション、ペット、ガーデニングなどの市場が広がる。その証拠にニトリやイケアなどのホームファッションの店が繁盛している。
子供たちも手から離れて一つの義務が終わった。これからの人生を快適に且つ精一杯エンジョイしたいという願望も大変強くなるが、特に精神的充実を求める。そのため旅行、趣味、学び等のニーズが高まる。
シニアマーケットに対するマーケティングは50才以下の人達に対する手法とは多くの点で異なり、ひとつ間違うと強い反感を買ってしまうので十分注意しなければならない。鉄則の代表的なものを取り上げてみよう。
米国で50才以上の人に高齢者のイメージ年令を問うと、80才以上と答える。つまり平均寿命以上生きた人を高齢者と思っているので、80才以下の人に対してはさりげない心遣いはしているが高齢者として扱わない。そして年令には実年令と認識年令(自分が自分を何才くらいと思っているか)があり、殆どの中高年の人は実年令より自分は若いと思っており、調査によると大体10~15才若いと出てくる。だから中高年の人に対しては、年令を示したアプローチをしないのが賢明だ。商品やサービスのネーミングも大切で、年を感じさせるネーミングにすると中高年の人々は遠ざかる。例えば、某大手旅行会社が中高年の人を対象に「銀令物語」という企画をしたが、銀令というのがシルバーを意味するということで人は集まらなかった。
そこで「童謡のルーツを探る旅」というネーミングで呼びかけたところ、中高年の客がすぐ集まり募集人員枠が一杯になってしまったという。最悪なのは老眼鏡と言う言葉だ。米国では読書鏡と呼ぶ。衣類では「イージーフィット」や「ルースフィット」という言葉は、「着脱しやすい」とか「動きやすい」という意味が関連付けされるからシニアの人が手を出しやすい。このように機能や用途等からアプローチし、結果として中高年の人達に受けるアプローチをする必要がある。
中高年の人々は店の感じや応対した人の態度に非常に敏感である。それは彼らが物事を判断するのに、左脳(論理の脳)より右脳(感情の脳)をより活用するようになるからである。若いうちは価格とか品揃えというハード面に大きな魅力を感じるが、シニア社会では感情(右脳)に訴求するソフト面に、より魅力を感じるようになる。そのため、感じの悪い店では買い物をしないで出ていってしまったり、2度と戻ってこないことになる。逆に右脳に訴求して「何となく感じの良いお店」という印象を与えると、滞店時間も長くなり、店の機能を良く見ようとして固定客になってくれ、口コミさえ始めてくれる。
坪当たりの売上げ生産性でギネスブックに登録されたコネチカット州のスチューレオナードというスーパーは、新鮮な商品と素晴らしい接客が多くのロイヤルカスタマーを作った。その店の入り口の石碑には「我々のルール」としてこのように書かれている。 「<第一条>顧客は常に正しい。<第二条>万が一顧客が間違っていると思っても、我々は第一条に戻る」。中高年客はこの真摯な態度をサポートしているのである。
また「出来ることなら何でもいたします」という姿勢が大切である。自分のためにこんなに努力をしてくれているということは信頼につながる。特にシニア層の場合はその店を当てにしてきていることが多いから、「扱っておりません」とか「出来ません」といわれると失望感が大きいのである。一旦当てに出来るとなれば、彼らはいつまでもその店を利用し、出来る限りそこで買おうとしてくれるようになる。“Yes, I Can” サービスは重要である。ロスアンゼルスにあるホートンコンバースというローカルドラッグは地元では大変有名である。「困ったらホートンコンバースへ」というのが地元の人の合言葉になっている程である。この店では顧客の問題を何とか解決するよう努力してくれるからである。
いくら元気なシニアが増加しているといっても、身体の衰えは否めない。その衰えに対するさりげないケアが大切になってくる。衰えの中でも早いのが、目の衰えで通常40代初期から始まる。ピント調節機能が衰えてくるため、POPなどには大きな字が必要になる。また角膜も透明度を失い濁ってくるため、色のコントラストがはっきりしてないと見にくい。売り場のサインも文字だけに頼るのでなく、イメージ色の活用やピクトグラム(絵文字)の活用が重要である。また瞳孔が縮小して明るさへの適応力が鈍るために、店舗作りでは「明るさ」が必須の条件になる。昔の米国のレストランはムード優先で非常に暗くてメニューを読むのにも苦労するくらいであったが、高齢化の到来で最近では非常に明るくなった。エイジフレンドリーなお店で評判なのが全米第二位のドラッグストアCVSドラッグだが、次のような対策をとっている。
シニアに便利さが重要なのは、年令が高くなるほど義務的な買い物や遠出が面倒になるからである。そのため日常の商品については「近くの店」というのが重要になってくる。そして重い物を抱えて帰るのは嫌なので、配達という機能を求めてくる。米国で意外に多いのがシニアのインターネットショッピングである。一回当りのサイトビジットの時間が他の年代に比べて40%も長く、購買単価は50%高いというデーターがある。これも便利性を求めている現われである。高齢社会においては消費者は「買い物に行く」と同時に、配達の「買い物が来る」、レストランにおいては「食事に行く」と同時に出前の 「食事が来る」という機能を求める。また家事代行サービス、ペットケア代行サービス、墓参り代行サービスなどのビジネスが出現するように、エブリーデーコンビニエンスがシニア社会ではキーワードになってくる。そのため米国のドラッグストアでは、ネットショッピング、メールオーダー調剤、ドライブスルー調剤、24時間営業、便利な立地、大きすぎない店舗(300坪の売り場面積)、待たせない調剤やレジなどの便利性を提供し、ディスカウントストアのウォルマート等と差別化している。
米国ではシニア市場を制した企業が市場を制するという言葉がある。この言葉はまさに日本のこれからのビジネス社会にも言えることだ。
(さらに詳しく知りたい方は拙著「シニアカスタマー」(商業界)をお読み頂きたい)
プロフィール
Excell-Kドラッグストア研究会(http://www.drugstore-kenkyukai.co.jp/)、Excell-K薬剤師セミナー、及びExcell-Kコンサルティンググループを率いる流通コンサルティング会社Excell-K(株)ドムス・インターナショナルの代表者。小売業、卸店、メーカーに対するコンサルテーションをはじめ、講演、執筆、流通視察セミナーのコーディネーターとして活躍。特にドラッグストア開発、ロイヤルカスタマー作り、シニアマーケティングのための実務と理論に精通し、指導と研究では第一人者。年間半年を米国で生活し、消費者の目・プロの目を通して最新且つ正確な情報を提供しながら、国内外における視察・セミナー・講演を精力的にこなす。
日本コカ・コーラ(株)、ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)を経て独立('90)。慶応義塾大学卒(法学)、ミズリ―バレーカレッジ卒(経済)、サンタクララ大学院卒(MBA)。東京都出身。
■米ドラッグストア業界2位のCVS