ドラッグストア研究会 松村清 最新USレポート 第4回 非計画購買が店舗に売上げ・利益をもたらす

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ドラッグストア研究会 最新USレポート

第4回 非計画購買が店舗に売上げ・利益をもたらす 

業態を超えた戦いが日本で起きる 

非計画購買で購入イメージ写真

お客は店舗を選択した後に商品を選ぶ。彼らはあらかじめ決めていた(計画購買)商品やサービスだけを買って帰るということはまず無い。お店で気がついた商品を思わず買ってしまうという非計画購買行動も行う。

米国のスーパーでは、買い物リストを持って買い物をする人45%だという。
リストに載る典型的な商品は牛乳、卵、トイレットペーパー等のニーズ商品(無いと困る商品)が多く、嗜好品は載らない傾向が強い。買い物リストを持った顧客はリストに載った商品しか買わないのではなく、実際には平均その2倍近くの商品を買っていることが多い。また例えばリストには「牛乳」や「洗剤」というように商品カテゴリーで書かれているケースが多く、固有名詞では書かれていない。つまり同じ商品カテゴリーの中でもアップグレードした商品、例えば一般牛乳でなく「明治のおいしい牛乳」を非計画購買で購入させることは可能である。

 

1. 非計画購買の重要性 

風邪のお客様に対して イメージ写真

米国大手スーパーマーケットのセーフウエイの店長は「お客のショッピングを、衝動買いに始まって衝動買いで終わらせられるお店は非常に利益がある」と述べていた。小売業に利益をもたらすのは、お客の非計画購買である。非計画購買商品は米国ではアドオンセール(追加購買商品)と位置づけている。米国のドラッグストアCVSのカイト店長の言葉が象徴的だ。「非計画購買の多くは衝動買いである。衝動的に購入するお客の心理は価格志向が薄く、それだけ店に大きな利益をもたらす。例えば風邪をひいたお客の多くは、風邪薬を欲しがる。これは計画購買の範疇である。しかし小売業の使命はソリューション(お客の問題解決)であることを忘れてはならない。いかにお客の風邪を一分一秒早く治して苦しさから開放してあげるかにある。風邪薬以外にうがい液、滋養強壮剤、ビタミンC、マスク等の商品が必要になる。そこで、風邪を治すのに必要な商品をまとめて陳列(ソリューション陳列)し、お客の顕在ニーズである風邪薬のみならず、潜在ニーズを引き出して非計画購買品販売することが出来る。お客の価格意識が薄く、お店の利益が高い非計画購買の促進が大切なのである。

 

2. 非計画購買の種類 

非計画購買は主に次の四つに分けられる。

a ) 思い出し購買

家で足りなくなっている商品、必要だが忘れていた商品の思い出し購買。 買い忘れを思い出させたり、商品の必要性を喚起するPOP従業員のアドバイスが大切だ。

b ) 関連購買

購入した他の商品との関連性から、売り場内でその必要性を認めて購買。 機能性或いは便利性に関連する商品を陳列し、POPや従業員のアドバイスにより使用法を訴求することが必要。

c ) 条件購買

差し迫って必要性を感じていないが、強く引き付ける要因があれば買っても良いと考える購買。「タイムサービス」「特別割引」などのPOP訴求が有効。

d ) 衝動購買

魅力的な陳列従業員のアドバイスにより理性ではなく、気分で思わず買ってしまう購買

 

3. 非計画購買を促進するのに大切な陳列 

顧客の購買行動比率 図

顧客の購買行動は、計画購買比率約20~30%非計画購買80~70%非常に高い計画購買の決定要因は、顧客の過去の経験、広告、チラシ、口コミ等である。だから計画購買には、商品がすぐ見つかって買いやすいことが重要だ。一方非計画購買には、衝動的な購買欲求を引き出すためにディスプレー(陳列)が重要な役割を果たす。ディスプレー(Display)の語源は、ラテン語の「DIS=PLICARE」である。「畳んだものを開く」陳列や展示の意味である。ディスプレーは、店がお客に向けて発信するコミュニケーションを、お客が店に足を運んで感じたときに初めて成立するメディアである。

 
e ) 陳列(ディスプレー)の基本

  陳列には次の条件が満たされなければならない。

イ) お客が買いやすい陳列
(1) 見つけやすい・・・セルフサービスの店ではお客の目に留まらなければまずは売れない。 見つけやすいという視認性を高める必要がある。
(2) 選びやすい・・・忙しい近年のお客が、自分に必要な商品を短時間に商品選択出来なけ ればならない。
(3) 安全で取りやすい・・・身体の機能が衰えているシニア客でも安全に取りやすい陳列が求められる。
ロ) 専門性のある陳列
(1) 清潔感がある・・・消費財商品の80%は女性が購買をしているが、その女性は不潔な 売り場や陳列を毛嫌いする。
(2) 楽しく美しさがある・・・義務的な買い物は出来るだけ短時間で、楽しい買い物は ゆっくりというのが消費者の心情だ。購買金額を上げるには楽しくて雰囲気の ある陳列が必要だ
(3) プレイバシーを守れる・・・プライバシー性のある商品には、買い物客の プライバシーを守れる陳列が望まれる。
ハ) 利益生産性の高い陳列
顧客中心の陳列と、店の売上げ/利益に貢献する陳列のバランスが求められる。
 
f) 熟知性(AIDMA)の法則の活用
アイドマの法則 表

売り込みたい商品は、徹底して複数陳列すると良い。狙った彼女を射止めるには、繰り返し繰り返しアプローチするのと同じだ。ドイツの心理学者エビングハウスは「人間は、一回記憶しただけで繰り返さない場合は9時間以内に3分の2を忘れ、残りの3分の1は数日のうちに忘れる」と述べている。販売を拡大したい商品は、繰り返し繰り返しチラシやダイレクトメールなどでお客に訴求し、店内でも1ヶ所だけでなくクロスマーチャンダイジング、関連陳列、セカンダリー陳列など複数陳列をして数多くの箇所に陳列する。
広告の業界に「アイドマの法則」というのがある。これは心理学者ローラン・ホールによって発見された人間の心理であるが、繰り返し訴求されることにより、関心が興味へ、興味が欲望へ、欲望が記憶へ、記憶が行動へ移っていくということを言う。

セールスマン イメージ写真

テレビコマーシャルが繰り返し流されるのは、人の記憶への刷り込み効果を狙っての行為である。チラシも回数を多くしないと人々の印象に残らない。私がかつて勤務していたコカ・コーラ社は消費者心理を良く研究していた。セルフサービス売り場で清涼飲料水を販売するに当たって、複数個所に陳列することにこだわった。アイドマの法則どおり、複数陳列が人々の関心や興味を生み、最後に購買という行動に移るのを知っていたからだ。セールスマンの場合も、成績の良い人は繰り返し繰り返し顧客に接触する人である。「熟知性の法則」とも呼んでいる。また米国の心理学者ザイアンスは、「人間は接触回数が増えれば増えるほど、その人に対する好意度は増す」と述べている。何回も会っているうちに相手との壁も取れ、スムースに感情が通うようになるのだ。ハンサムだからといって女性にもてるかというとそうでもない。持てる条件は「こまめ」であることだ。

 
g) 非計画購買を促進する陳列の例
① ディスカウントや生活提案陳列
ディスカウント率が高い場合や、自分にぴったりの生活提案をされると、 お客は非計画購買いを起こしやすい。
② 目立つ場所に大量陳列
ゴンドラエンドや平台陳列の大量陳列は、お客の目に付き非計画購買いを高める。
③ 関連陳列
用途・機能において関連性のある商品を並べて陳列することにより非計画購買を促進。
 

8.ドラッグストアは接客のプロ 

●売り場環境を常に変化させる
行きつけの店の場合、お客は売り場の状況を熟知しているので購買行動が機械的になり、新しい商品があったとしても気づかない。そのため、売り場は定期的に陳列を変更したり、イベントを行ったりして目新し刺激を与えることで衝動さを出し、機械的な購買行動に買いが起きる。
●子供又は女性連れの買い物
連れのいる人いない人より大幅に滞店時間が長い。買い物に子供や女性の連れを伴っていると、お客は非計画購買が促進される。但し連れが男性の場合は滞店時間を短くするので要注意である。
●キャッシュディスペンサーの設置されている店、
  クレジットカード使用可能な店
支払いに裕がある気持ちになり、非計画購買高まる
 
 
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プロフィール

ドラッグストア研究会松村清会長
ドラッグストア研究会
松村 清 会長 (まつむら きよし)
 

Excell-Kドラッグストア研究会(http://www.drugstore-kenkyukai.co.jp/)、Excell-K薬剤師セミナー、及びExcell-Kコンサルティンググループを率いる流通コンサルティング会社Excell-K(株)ドムス・インターナショナルの代表者。小売業、卸店、メーカーに対するコンサルテーションをはじめ、講演、執筆、流通視察セミナーのコーディネーターとして活躍。特にドラッグストア開発、ロイヤルカスタマー作り、シニアマーケティングのための実務と理論に精通し、指導と研究では第一人者。年間半年を米国で生活し、消費者の目・プロの目を通して最新且つ正確な情報を提供しながら、国内外における視察・セミナー・講演を精力的にこなす。

日本コカ・コーラ(株)、ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)を経て独立('90)。慶応義塾大学卒(法学)、ミズリ―バレーカレッジ卒(経済)、サンタクララ大学院卒(MBA)。東京都出身。

CVS

■米ドラッグストア業界2位のCVS

主な書籍
ウォルグリーン―世界No.1のドラッグストア
ウォルグリーン―世界No.1のドラッグストア
松村 清 著
商業界 版
単行本
ページ 295P
サイズ 四六判
 
シニアカスタマー―中高年に好かれる企業が市場を制する!
シニアカスタマー―中高年に好かれる企業が市場を制する!
松村 清 著
商業界 版
単行本
ページ 212P
サイズ 四六判
 
サービスの心理学―心に染みるエピソード集
サービスの心理学―心に染みるエピソード集
松村 清 著
商業界 版
単行本
ページ 239P
サイズ 四六判
 
目からウロコ 販売心理学93の法則
目からウロコ 販売心理学93の法則
松村 清 著
商業界 版
単行本
ページ 247P
サイズ A5ソフトカバー
 
・「ニューシニア(50歳以上)をつかまえろ!!
・「 売上げと利益を運ぶロイヤルカスタマー
・「最強のドラッグストア ウォルグリーン
・「 米国ドラッグストア研究
(以上、商業界刊)。

バックナンバー

第25回 体の衰えとエイジフレンドリーな対応

第24回 心のつながり(ハイタッチ)

第23回 「ドラッグストア業態争奪戦」(PartⅡ)

第22回 「ドラッグストア業態争奪戦」(PartⅠ)

第21回 お客の欲求段階により大きく変化する品揃え

第20回 繁盛店はユニバーサルデザインとソフトのバリアフリーの両方を提供

第19回 シニアはわがままを聞いてくれる店が好きだ

第18回 シニアはシニアと呼ばれるのを嫌う

第17回 返報性の法則が大きく働く高齢社会

第16回 ロイヤルカスタマー作りはホスピタルティーがカギ

第15回 お客様は愚かな買い物を嫌う、賢い買い物をしたい

第14回 POPはサイレントセールスマン

第13回 “Rich Enjoy Discount, Poor Need Discount”

第12回 お客様は誰でもお得な買い物をしたい

第11回 価格に対する消費者心理の摩訶不思議

第10回 ゴンドラエンドは売り場の華

第9回 お客様に好かれる陳列の工夫

第8回 顧客の信頼を獲得するなら屋作り

第7回 有効なマーケティング手法になる音と香り

第6回 ゴールデンエイジ攻略の鉄則

第5回 少子高齢化のマーケティング

第4回 非計画購買が店舗に売上げ・利益をもたらす

第3回 ウォルグリーンが激しい異業態間競合を生き残れた理由 PartⅡ

第2回 ウォルグリーンが激しい異業態間競合を生き残れた理由 PartⅠ

第1回 心理学を利用した利益を上げるレイアウト

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