シニア対策の進んだ米国でも日本と同様、シニアの人々をどのようなネーミングで呼んだらよいか、適切な言葉はまだ見つかっておらず、その都度使い分けが必要だ。一般的には「シニア」「マチュア」「アダルト」「50+」「60+」というような言葉を使っているが、シニアの人達が年齢を感じさせる言葉を嫌う傾向にあるのは日本と同じだ。雑誌や新聞が「シニア」と書くことには問題ない。だが50歳以上の人に「高齢者とは何歳以上か」と聞くと、大体「80歳以上」という答えが返ってくる。米国の平均寿命は約78歳だから、平均寿命以上を生きた人を初めて「高齢者」と見ているのだ。ある有名な化粧品会社の社長は「年齢は肉体が決めるものではなく、自分が決めるものだ」と豪語する。日本でも70歳を超えた俳優の若大将加山雄三や登山家三浦雄一郎の活躍を見ていると高齢者というイメージはない。日本で年寄りの「イメージ年齢」はという質問をすると、10年前までは65歳以上であったが、現在は70歳以上になってきている。いずれ米国と同じように平均寿命以上を生き抜いた80歳以上ということになるだろう。
日本の電車やバスの「シルバーシート」は「優先席」へと表示が変わった。1990年代米国のドラッグストアはおじいさん・おばあさんのイラストを描いて「シルバーケアコーナー」と名付けた介護用品の売場を作ったが、不振を極めた。年寄りくさい売場を嫌ったのが理由だ。そこで「ホームヘルスケア(介護・看護)」と変えて、年齢を連想させるイメージを取り払ったところ、売上げが大幅に伸びたという。ホームヘルスケアとはホスピタルケア(病院でのケア)の反対語で、退院した後の家庭でのケアのことだから、例えばサッカーで骨折した人、野球で捻挫した人の家庭でのケアなど、すべての年代層を対象にした売場になったため、暗さがなくなりシニアの人々も売場に来やすくなったのだ。いづれにしても年齢を感じさせる呼び方や年寄り扱いはごめんだという人がシニアには多い。
シニアという言葉の誤った使い方に共通するのは、シニアを特別な目で見ていることである。シニアを保護が必要な「弱者」と決めつけているが、シニア自身は自分を弱者とは考えておらず、老人とさえ思っていない。心理学的に言えば、「いつまでも若くありたい(フォーエバーヤング)」という潜在願望を持っているのだ。そのような人々を年寄り扱いすれば怒るのは当然だ。一方、彼らはちゃっかりもしており、シニア割引のような特典は嫌がらず活用する。
米国のシニア達は世界No.1の小売業ウォルマートをそれほど評価していない。遠過ぎる、店が広すぎる、レジで待たされるといった理由もあるが、それ以上に売れ筋のみを品揃えしているので、自分の問題解決(ソリューション)のために必要な商品が揃っていないという不満があるからだ。顧客が問題解決のために必要としている商品について考えてみよう。例えば「防災の日」のキャンペーンとして防災グッズを陳列しても、お客はどんな基準で商品を選べばよいか分からない。防災で大切なことは3日間のサバイバルである。3日間生き抜くために必要な商品をそれぞれの家庭の事情に合わせて教えて欲しいし、品揃えして欲しいのだ。ソリューションとは具体的な提案なのだ。
売場にはいかにも「問題を解決してくれそう」という見た目、つまり雰囲気作りが重要だ。スウェーデンから再度日本に進出して大繁盛のホームファッションファーニシング企業「イケア」では、台所、寝室、バスルームなど家庭におけるそれぞれの部屋の雰囲気を売場で表現し、まずはお客の視覚に訴求してお客がイメージしやすいように工夫している。どんな絶品料理を提供するレストランでもおいしそうな雰囲気がなければ味の印象は帳消しになってしまうように、ドラッグストアなら病気が治りそうなイメージ作りは欠かせない。
「こうすると、こんな結果になる」という使用後のイメージが分かりやすい提案が必要だ。例えば、新しい色のヘアカラーを選ぶとき、そのままでは結果がイメージしにくいので、ヘアカラーによって自分の姿がどう変わるかがモニター上で分かる仕組みにすれば、イメージをつかみやすい。特にシニアの女性は、それを使うことによって「自分が若く見えるか」「美しく見えるか」などイメージが浮かばないとなかなかチャレンジしてこない。
3つ目はカウンセリングの能力だ。シニアは自らの価値観や好みを明確に自覚しているので、十把ひとからげのカウンセリングでは満足しない。また商品の機能の説明ではなく、その商品が自分の問題解決のためにどのように役立つかを知りたいのだ。
風邪は放っておけばそのうち治るが、風邪をひいたときに薬を求めて薬局に行くのは、一分一秒でも早く治して気分を良くしたいからだ。風邪は初期・中期・後期によって症状も治療法も異なる。初期症状ならば、ビタミンCや滋養強壮剤、うがい液、マスクなどが役立つが、それを無視して風邪薬だけを揃えていたのでは、お客のソリューションにはならない。 「リラックス・ザ・バック」という腰痛と首の痛みの解決策を提案する店がロサンゼルスにある。この店は「腰痛・首痛の開放と予防」をコンセプトに、椅子や枕、ベッド、マッサージチェア、車のシートサポート、手揉み器具などを揃えている。店がオープンした当時は「こんな店がやっていけるのか」と心配されたが、そのうち株式を上場するまでに成長した。人間は母親の胎内(羊水の中)にいるときの状態が最も自然で楽な姿勢で、NASAの飛行士の椅子はそこからヒントを得て開発されているそうだが、この店もまた次の4つのソリューションを提供してシニアの人々にサポートされている。
プロフィール
Excell-Kドラッグストア研究会(http://www.drugstore-kenkyukai.co.jp/)、Excell-K薬剤師セミナー、及びExcell-Kコンサルティンググループを率いる流通コンサルティング会社Excell-K(株)ドムス・インターナショナルの代表者。小売業、卸店、メーカーに対するコンサルテーションをはじめ、講演、執筆、流通視察セミナーのコーディネーターとして活躍。特にドラッグストア開発、ロイヤルカスタマー作り、シニアマーケティングのための実務と理論に精通し、指導と研究では第一人者。年間半年を米国で生活し、消費者の目・プロの目を通して最新且つ正確な情報を提供しながら、国内外における視察・セミナー・講演を精力的にこなす。
日本コカ・コーラ(株)、ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)を経て独立('90)。慶応義塾大学卒(法学)、ミズリ―バレーカレッジ卒(経済)、サンタクララ大学院卒(MBA)。東京都出身。
■全米No.1のドラッグストア ウォルグリーン
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