昨年は食の安全を脅かすニュースが頻繁に報道され、冷凍食品などは思わず原材料の表示ラベルを見るのが習慣となってしまった。しかし、個々の材料の原産地までは表示されず品物を棚から出したり戻したりしながら買うか買わないか思案する毎日だ。もちろん食品衛生法や表示関連法の厳格化なども必要だが、意図的にごまかそうと思えばある程度できてしまうのは暴露された事件でも証明済みといえる。
こうした状況の中で、ではどうすれば安全な食べ物を摂ることができるだろうか。一つの方法が人の持っている感性を毎日磨くことだ。例えば、人は陸のほ乳類としては嗅覚が鈍いといわれているが、それでも判別できる臭いの種類は約1万ある。この嗅覚は食べ物をまず嗅いで安全に食べられるか危険性を持っているかどうかを瞬時に判別する。腐った臭いはいうまでもないが、「何だか嗅いだことのないいやな臭いがする」感覚もときに化学合成物質の危険から身を守ってくれる。昨年騒がれた農薬入り餃子事件でも、「一寸臭いを嗅いで気持ち悪かったから食べなかった」ひとは全く被害を受けずに済んだ。その反対に「一瞬変な臭いがしたのだが、勿体ないと思って食べた」人は重大な健康被害を被った。ここで誤って食べてしまう現象がなぜ起きるかといえば、嗅覚は大変鋭く安全・危険をかぎ分けるがそれ故に短時間で麻痺する特性を持っているからなのだ。
次に味覚について述べると、嗅覚よりも危険予知能力が麻痺するまでの時間が長いが、高度に加工された食品に慣れきった我々は、本当に身体に有利なものの判別能力が低下している。だがそうした条件下でもかなり敏感に危険を予知できる方法がある。それは、食べ物の外見にとらわれずにゆっくり噛みしめて味を確かめながら食べればよい。特に最初の一口二口が勝負で、その段階で、「まずい」とか「何だか変」と感じた食べ物は勿体ない精神を忘れて食べない方が無難だ。そうした勘を磨くには、他の人が食べるから私も食べなくてはという「つき合い食い」や時間がきたから食べる「スケジュール食い」を止めて、空腹になるのを待ってたべる方法に切り替えるとよい。ましてテレビを見ながらの「ながら食い」もってのほかで、食べることに集中して美味しく感じるものを命に感謝しながら味わえば安全はきっと確保されるはずだ。
我々は高度に発達した情報化社会で生きているが、情報に頼る余り本能的な勘をないがしろにしすぎている。いざというときに身を守ってくれるのは、生命誕生以来数億年にわたって進化させてきた感覚や勘であることを忘れてはならない。
プロフィール
URL:誠快醫院ホームページ
http://www.seikai.com/
1948年東京生まれ。1973年横浜国立大学工学部建築学科卒業。1980年に指圧師、1981年に柔道整復師免許取得。1989年東邦大学医学部卒業、同年医師免許取得。1991年に自由診療で統合医療を行う誠快醫院開業。人間ドック認定医。著書にSPAT-DVD骨盤編・頚椎胸椎編(以上医道の日本社)、超短時間骨盤矯正法SPAT(源草社)、操体健康法(宙出版)がある。
人間ドック学会(認定専門医)
SPAT UNION CLUB会長
理想論をいえば行政、業界団体、流通業者、生産者が高い志をもって安全安心な製品を届けるべきであるが、現実には過当競争もあり利益優先で問題を起こす業者が後を絶たない。こうした状況下で安心を得る最後の手段が人間の感性を信頼することだ。動物としての人が持っている本能をもっと活用し、危険をぎりぎりに回避する方法を提案したい。
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