健康食品に対する表示規制が厳しくなっている。世界不況とあいまって閉塞感が漂い続ける業況感にあって、その突破口に法制化を求める声もある。そうした中、エビデンスラボは、医療機関との連携で健康食品の持つ潜在能力を引き出すサポート事業を行なっている。同社代表取締役であり、大阪大学付属病院にて補完医療外来も担当する西谷真人氏に医療現場と健康食品の融合のメリットとその展望・可能性について聞いた。
健康食品というのは病気の予防という観点からみても十分にパフォーマンスを秘めた商材です。しかし、薬ではありませんから特定保健用食品(トクホ)以外は明確に機能性を謳うことはできません。それは致し方ないことですから、表示規制が厳しいから売れないと言っても何も始まりません。確かに伸びは鈍化していますが、予防医療重視と医療費抑制は国策ですし、高齢化もあり、健康食品市場は、他の産業に比べればプラスの要因も多くあります。だからこそ、今はとにかく消費者の信頼を積み重ねていくしかありません。
私は、法制化に関しては違和感を感じています。というのは、日本には世界にも誇れる保健機能食品制度としてトクホがあるからです。このトクホ制度とは別の法律を作る意味はあまり無いように思います。それよりも、国が認めるこのトクホ制度をより良いものに、より充実したものに育て上げていく努力が求められます。確かにトクホに関しては、許可を取得してもかかるコストの割りに売上が伸びないという声も耳にします。しかし、それは新しい領域にチャレンジしていないことにも一因があります。同じ種類の商品が多数出回っている既存領域のトクホを開発するよりも、これまでにない画期的なトクホを開発する方が市場に対するインパクトは大です。消費者もそれを望んでいます。そして忘れてはならないのは、新規の領域に関する門戸は決して閉ざされていないという事実です。今我々には、新規領域にチャレンジする姿勢が求められています。
健康食品を一般市場にてマーケティングする際に最も問題となるのが、有益なデータやエビデンスを構築しても十分に公表できないことです。そこで我々が推進しているのが、医療機関と連携した「市販後調査」です。この「市販後調査」の枠組みで、食品の特長やそのエビデンスを医師から患者(消費者)に正確に伝えることが可能です。この「市販後調査」は内科医会などの医師組織が主体となり行うもので、医師が食品摂取の適する患者を選定し、食品の特長やエビデンスを説明・指導します。臨床的な調査研究ですので、臨床データ(問診、理学検査、血液検査等)の収集も行われ、有効性、安全性等のエビデンスをさらに充実させることも可能です。モニターの募集は、院内にポスターを掲示するなどで行っています。
我々がこの会社を立ち上げたのは2006年1月ですが、その頃は確かに必ずしもいい感触ではありませんでした。しかし、大阪府内科医会会員のアンケートではその85%が「健康食品を診療に取り入れたい」と考えているとの回答が得られています。立ち上げから3年以上になりますが、「健康食品の中にも、医療現場で有益に使用できるものがある」という認識を多くの先生方に持っていただけるようになっています。また、当初は予想しなかったことですが、診察室で食品を話題にすることにより、患者さんとのコミューケーションが大きく増えたというんですね。そうしたこともあって、立ち上げ時にはあった厳しい声やネガティブな意見も今ではポジティブなものに変わってきています。
アンケートで「診療に取り入れたい」と回答した医師の方も、扱う商品にしっかりとしたエビデンスがあり、安全性が担保されていることを求めています。そういう意味では、しっかりとしたエビデンスのある商品であることが「条件」といえます。コストに関しては、安くはないでしょうが、それほどはかかりません。求められるクオリティは低くはありませんが、市販後調査ではその結果を内科医会などの医師組織が主体となり、論文・学会発表などもしますので、医学会・医療界での認知度アップに貢献します。このメリットは非常に大きいと思います。
医療機関にて健康食品が今以上に使用されるようになれば、患者に長期的に摂取される息の長い食品の誕生につながります。というのは、医師から紹介された食品を患者は末永く使用することが期待されるからです。商品寿命の長い食品の開発は、業界にとってもちろん恩恵です。また先ほども述べましたが、医科向けに求められるクオリティは決して低くはありませんから、健康食品の品質の底上げにもつながってくると思います。つまり、医療現場にても有用な、真に予防医療に貢献する食品の開発が進むと思われます。また、医療現場で先行的に実績を作り、一般向けにもっていくというやり方も出てくるでしょう。そうなれば、玉石混交の健康食品がふるいにかけられることにもなり、健全な発展につながっていくのではないでしょうか
私自身が医者であることが多分に影響していると思いますが、最終的な受益者である患者・消費者にとってメリットのある形での業界の発展を願っています。各メーカーが各々に短期的な売上増を目指すだけでは、中長期的な市場の拡大、業界の発展は難しいのではないでしょうか?現在はまさにその重要な局面にあるといえます。予防医療にも貢献するしっかりとした健康食品が次々と誕生することで、健康食品のイメージアップにつながり、結果として市場全体が活性化することを望んでいます。
私がこの事業に取り組んでいるのは、健康食品に大きな可能性を感じているからです。そうした点から言いますと、メーカー様にはいい商品をどんどん作って欲しいと思っています。先ほども述べましたが、ヘルスクレームが謳えるトクホについても「物足りない」と思っているメーカー様が多いようです。しかし、それは新領域にチャレンジしていないからです。今後期待されるトクホとして一般的に言われている膝関節、尿酸値、花粉症・アレルギー以外にも、疲労、脂肪肝・肝機能、物忘れ・認知症・認知機能、過敏性腸症候群や機能性胃腸症などの機能性消化管障害、過活動膀胱や前立腺肥大などの排尿障害・下部尿路障害…など、食品でも対応できる領域はまだまだいくらでも眠っています。医者としての立場から言えば、医学的・栄養的にも価値があり優れた機能性食品がたくさん生まれてくれば、本当の意味での予防医療の実践も可能になり喜ばしく思います。健康食品業界全体でみても、玉石混交の健康食品がふるいにかけられることになりますから、消費者にとっても真に有用な商材を取捨選択できる土壌が整い、市場は健全に発展していくと思います。
プロフィール
株式会社 エビデンスラボ
代表取締役社長
西谷 真人 (にしたに まさひと)
総医研クリニック 院長
大阪大学生体機能補完医学講座
(補完医療外来担当医)
日本統合医療学会 認定医
日本補完代替医療学会認定
補完代替医療学識医
1974年4月 大阪府生まれ
京都大学農学部農芸化学科、
京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻(修士課程)
を経て、(株)田辺製薬に入社。分子生物学・遺伝子工学を用いた創薬研究に従事。
その後、大阪大学医学部編入学(学士入学)・卒業を経て、
大阪大学付属病院にて臨床に従事。
現在は、総医研クリニックにて、トクホなどの様々な機能性食品の臨床試験の試験責任医師・試験分担医師を務めるとともに、阪大病院での補完医療外来なども担当。
機能性食品をはじめとして、補完代替医療や統合医療に関する豊富な知識を持ち合わせ、
医療機関における市販後調査の実施など、機能性食品を用いた予防医療の実践に取り組んでいる。
【株式会社 エビデンスラボ】
2006年1月に総合医科学研究所(現総医研ホールディングス)と博報堂の合同出資により設立。
トクホのヒト臨床試験で豊富な実績を有する総合医科学研究所の高い学術的ノウハウと大手広告代理店の博報堂が有する質の高い広告・マーケティングノウハウを融合することによりこれまでにない画期的なビジネスモデル構築を可能にした。
主な事業内容は、トクホなどの各種機能性食品等の有効性・安全性についての医師組織主導型学術調査の受託、その調査を介した医療機関への広告・マーケティング推進事業。調査結果を活用した医学会等での普及支援事業。
さらには一般向けマーケティング支援事業なども行う。