――米国国立予防衛生研究所(NIH)に招聘された経験から、日本に国立健康研究所の設立の必要性を思い立ったそうですが?
米国国立予防衛生研究所(NIH)には、ステロイドの研究で2年間行っていました。研究員が約1万5000人もいて、がん研究所や代謝病研究所など約20の研究所の集まりで、何十種類もの新薬の治験を同時にやっているような、今でいう治験の本家本元といったところです。いわば総合医学研究所です。1950年代当時は、ステロイドの新薬の開発研究が大変盛んでした。私はステロイドの分析についての研究も行っていたんです。
NIHの正式名称はNational Institutes of Healthですが、日本では不思議なことに国立健康研究所とは訳さない。日本では、健康イコール体操ぐらいにしか考えない。アメリカではヘルスという言葉の意味を、体の健康、精神の健康などトータルに考えています。当時、NIHで研究しながら強く感じたのが、「日本にも、国立“健康”研究所なるものを作らないといけない」ということです。アメリカの医療費が高騰し、医療革命が進んでいます。自分の健康は自分で守るという予防医学の時代になりました。ライフスタイルの中で常に健康を考え、病気が発症する前に、予防することが大事です。日本でも、やっと近年になって、予防医学の必要性が問われています。
――代替医療の必要性を感じて、新潟バイオリサーチセンターを立ち上げられたのですか?
1998年アメリカのNIHの中に国立補完・代替医療センター(NCCAM)が設立されました。この研究所の使命として、厳正な科学を背景とする補完代替医療の探究、補完代替医療研究者の養成、一般大衆及び専門家への権威ある情報伝達の3つが挙げられています。ここが非常に大事な点で、アメリカでは国立の研究所で代替医療や機能性食品の研究を行っています。予算も年々増えています。新潟バイオリサーチパークの中にこのような研究所を作ってはどうかと考えています。
これまで、大学人は健康食品の研究を敬遠していたきらいがありますが、もっと大学人がこの分野に入り込まないといけないと思います。機能性食品を徹底的に研究する施設が必要です。
――新潟バイオリサーチパークという研究機関を立ち上げた経緯を教えてください。
新潟薬科大学の学長に就任して一年後に、新潟市から15分くらい離れた新津市から土地を提供するから大学を移転してこないかという話がありました。約30ヘクタールの広大な土地に新潟薬科大学を移転することになったんです。その際に、市と共同で、大学の周辺にバイオリサーチパークを作ろうという話が持ち上がりました。
大学は薬学部だけでは物足りないということで、移転の機会に応用生命科学科と食品科学科をもった応用生命科学部を作りました。
この新学部設立のとき、食品産業からの要望と支援もありました。「自分達が作り出す食品の成分などをもう一度見直して、高付加価値をつけたい。また食の安全性の問題についても、しっかり研究して欲しい」といわれまして。産業界と大学が一緒になったビッグプロジェクトを作りたいと思っていたので、食品産業界からの協力はとてもありがたかったですね。企業からの支援のおかげで、機能性食品開発の寄附講座を持つことができました。これで予防医学の研究の第一歩が踏み出されたと思います。
――新潟バイオリサーチセンターで機能性食品を研究することのメリットとは何ですか?
大学には薬学部と応用生命科学部がありますから、専門家がそろっているということが大きなメリットです。また、うちの大学には、トクホ(特定保健機能食品)の申請で苦労しているようなメンバーも多い。実際にメーカーの立場に立って厚生労働省にトクホを申請した研究者たちがいるので、申請のコツもある程度はわかっているんですよ。企業の場合、申請書を書いたりするのも意外と大変な作業だといわれますから、どうやって研究論文を書くか、また申請書を書いて、厚生労働省に提出するか、というようなことも指導できます。
また、健康食品の企業を見ていますと、分析力に弱さを感じます。分析が未熟だとトクホへの申請が結構難しかったりするんです。その点、うちの大学は薬学部もありますし、多様な経験を経た研究者もそろっているので、分析力には自信を持っております。そういった、しっかりした枠組み作りが企業から信頼を得て、共同で研究を進めることが出来ます。
――最後に、先生が研究者として、今後追求したいテーマなどはありますか?
私の専門は天然物化学ですが、日本の薬学の原点は植物成分の研究にあります。我々の先輩は機能性食品の研究の原流にあるといえます。機能性食品は医薬の観点と食品の観点の両方から研究する必要があります。
これまで、海草成分の研究、植物成長ホルモン、スクワレンなど、色々やってきましたが、漢方薬の成分を含めて、今の進んだ考え方と手法によってこれらの成分研究を再検討する必要があると思っています。きっと新しいものが生まれてきます。
- 第1回 株式会社ハーバー研究所 代表取締役社長 小柳昌之氏
- 第2回 新潟バイオリサーチセンター 所長 池川信夫氏
- 第3回 日本緑茶センター株式会社 代表取締役 北島勇氏
- 第4回 アニュー株式会社 代表取締役専務 大森貞喜氏
- 第5回 サントリー株式会社 食品カンパニー健康食品事業部部長 新免芳史氏
- 第6回 大塚製薬株式会社 ニュートラシューティカルズ事業部 製品第二部 APMM 戸山謙一氏
- 第7回 カーディナル・ニュートリション社 副社長 グラント・バーグストロム氏
- 第8回 キリンヤクルトネクストステージ マーケティング部部長 浅野高弘氏
- 第9回 タカラベルモント株式会社 理美容事業部長 兼 エステ・ネイル事業部長 山形輝雄取締役
- 第10回 ホーファー・リサーチ社 最高執行役員代表取締役副社長 ビクター・フェラーリ氏
- 第11回 ファイテン株式会社 代表取締役 平田好宏氏
所長 池川信夫氏
外観(予想図)