慶応義塾大学法学部法律学科卒業。長谷川香料(株)入社後、1985年に同社米国法人の副社長に就任。1992年に帰国後海外事業部部長を勤める。2000年に上海長谷川香料有限公司・総経理に就任。退任後の2004年より日本香料工業会専務理事就任。
国内で1300~1500億円の市場とされている香料は、食品に使用されるフレーバーと化粧品などに使用されるフレグランスの2つに大きく分類されます。食品業界で製造されている、ほとんどの加工食品にフレーバーが使用されていますが、市場はほぼ横ばいです。しかし近年では、健康のために塩分や糖分を抑えた食品や機能性食品の需要が伸びてきており、これらを美味しく食べるためにはフレーバーが欠かせないものとなっています。また、化粧品業界では化粧品や石鹸、香水、トイレタリー用品などに多くのフレグランスが使用されていますが、近年は無香料をうたった商品が多く出回っているほか、自分で好きな香水を作る人が増えているため厳しい状況です。さらに消費者に香料が入っていると危険なのではという誤解を招いていることを懸念しています。実際のところ香料は食品衛生法で香料物質が厳しく制限されており、使用される量もごく微量なので身体への影響はありません。
海外では広く使用を認められているが国内では認められていないフレーバーが混入していて問題となったことがあります。これは国内と欧米でのフレーバーの認可基準の違いがあるために発生しました。各国の添加物規格に関する専門家及び毒性学者で構成される国際専門家会議(JECFA)で国際的に安全と評価されたものが国内では使用を認められていない反面、国内で使用が認められているフレーバーが海外で使用できないという問題があります。
国内の認可基準を世界に整合するために、フレーバーに関しては、一部地域を除き世界の大半の香料工業組織が加盟しているIOFIという国際的業界団体に当会から委員を送り、日本の立場を伝えながら、国際的な動向の情報収集に努めています。 現在、厚生労働省に協力して、世界で安全性が確認済みであり広く使用されている香料でありながら、日本では86品の個別指定品目と18の類指定に入らない香料物質を、新規個別指定品目としての認可を得て、国内で使用できるようにする作業を進めることと同時に、国内では使えるが海外では使用できないという香料物質のFEMA GRAS 化を2年以内にめどをつけるべく、努力しています。
個別品目指定ポジティブリスト化は今後国際的主流となる見込みで、既にヨーロッパや韓国、中国なども同様の作業を進めています。
国内香料のグローバル化に向けて多くのコストがかかる点もあり、香料業界が抱えている課題は様々です。業界が今後発展していくためには、各社がもっている高度な合成や発酵、抽出技術を用いた新しい市場の開拓が求められています。また何か問題が発生してしまっては業界全体のイメージダウンにつながります。安全性の訴求を第一と考え、国内で認可された香料物質以外を使用しないよう法律を遵守することや、使用原料のトレサビリティーを明確にすることが求められます。近年では国内だけでなく、10億人市場ともいえる中国のほか、タイなどのアジア地域に進出する企業も増えています。しかし欧米への進出は香料の嗜好性が大きく異なるなどの問題、中東圏では宗教上、香料に規制があるという問題があり、依然として難しい状況です。
当会は1970年に設立され、国内で香料を扱っている会社の約95%が参加しています。現在、大手から中小企業まで154社の会員がいます。世界全体ではフレグランスが主流ですが、国内に限っては、7:3の割合でフレーバーを扱っている会社が主流です。情報交換の場、決まった法に関する当会の指針を伝える場として年に6回会員向けに、東京と大阪の2ヵ所でセミナーを開催しています。また当会のホームページで国内使用可能なフレーバーのリストを公開しています。フレグランスに関しては種類が膨大ということもあり、法での規制がありません。これは国内だけでなく世界も同様で、国際的業界団体IFRAで決められた使用禁止物質の指定そして量的制限や基準を関連業界全体で自主的に規制していこうという取り決めを守っていく制度ですが、現在は関係業界以外には公開していないため、今後は我々に活動をご理解いただける関連事業者の方々の新規入会をお勧めするとともに、IFRA Standardを説明するセミナーの公開も考えるべき時期にきていると思っています。また昨年より会員だけでなく、一般消費者にも香料の有用性や安全性を知ってもらうために学校や地方コミュニティーでの講演や説明会を開催しています。また香料に関する疑問や相談にお答えできるような体制を整えています。これからも情報提供に努めていきたいと思っています。