東京理科大学理学部化学科卒業。武田薬品工業(株)入社。一般用医薬品、医薬部外品、化粧品等、薬局・薬店向け新製品企画開発業務に従事、商品開発部長となる。医薬品産業政策懇談会開発部会に参画。日本大衆薬工業協会では食薬区分の検討小委員会委員長。日本健康科学学会評議員・編集委員会委員、日本油化学会。著書に『健康強調表示』など。
食に対する期待が高まっている中、消費者が求めているのは、どんな健康食品を自分が使えば良いか分かる表示だ。メーカーが表示をするにあたって、人臨床によるデータは不可欠である。有効性を主張したいなら各企業がそれぞれにデータを取るのは消費者に対する義務ではないか。自社製品外のデータで販売している企業もあるが、製品により配合量なども違うはずだ。公正取引委員会から表示の裏づけになるデータを要求されたら、15日以内に提出しなければならない現状もある。
と言っても、データがトクホレベルのRCT(無作為化比較試験)によるものでなければいけないとは思っていない。それで結果が出るようなら医薬品にも通用するのではないか。しかも、トクホの場合老若男女全てを対象にしてプラセボに対して有意差がないと認めないとされている。医薬品でさえ、ターゲットを絞って有意差がでるのであって、食品の効果に期待しすぎではないかと思う。病気には病気を示すパラメーターがあるが、半健康状態の人のバッググラウンドデータは、遺伝的素質や生活習慣など、色々な複合的要因があり、その解明はまだ十分されていないことも考慮すべきではないかと思う。
当協会では、ここ数年、トクホ目的以外でヒト試験を行う場合は審査の上助成金を出す事業を行っている。トクホになりえなくてもエビデンス作りは大事なことだ。科学的根拠の収集に努力することによって消費者に自信を持って自社品を薦められる。
また、「いわゆる健康食品のあり方検討会」でも議論され、医薬品に準拠した方法以外の食品の機能の評価方法を考えていかなければならないことが確認されている。現在認められているトクホはバイオマーカーに基づいて評価しているのが実情だ。自覚症状に対する効果だけでは認められていない。しかし、実際、クロレラ、ローヤルゼリーや人参などは昔から使用実態があり、人それぞれ体感もある。そういうものをどう評価するか。トクホ的なバイオマーカーによる評価だけでは、現在の使用状況に対応した評価はできないのではないか。
食品の場合、単一の成分ではなく複合成分で1つの作用を表すことも多い。例えば、あるハーブでは複合成分を単一の成分に分けていくと、突然効果がなくなる。「あり方検討会」では、科学的根拠が少ないために、いわゆる健康食品の有用性について説得できなかったことは残念だ。新しい評価法は、医師、薬剤師を含め食品の健康への役割分担を含めた何らかのコンセンサスが必要だ。そうした関係者の理解が得られないと、健康食品の社会的な認知はうまくいかないだろう。
新しい評価法の確立が必要だということは行政も認めている。国、例えば国立栄研などに研究をやっていただきたいが、お金と時間がたいへんかかる。EUの機能性食品評価プロジェクト「パスクレーム」(PASSCLAIM)の研究は、一つの良いモデルである。健康食品を売りたい企業が自ら、社会に認知してもらえるよう、科学的根拠に関する研究を推進しなければならない。消費者に対する企業責任を忘れてはならないと思う。
業界で一番感心が高いのは、商品に関する正確な情報を表示するためのいわゆる健康食品の立法化だ。立法化が必要だということは、当団体でも「あり方検討会」などで主張しているが、それを実現するにはデータの裏づけをきちんと取り、評価法を確立することも重要なことだ。