原料特集 情報提供:株式会社ダイセル
骨を強化し、イソフラボンの生理活性高めるカスピ海ヨーグルト生まれの機能性素材 ラクトビオン酸
英語名:Lactobionic acid 化学式:C12H22O12
着実に進む高齢化。医療費膨張も深刻だ。名ばかりの長寿社会ではなく、「健康長寿」の実現が望まれている。そうした中、ミネラルの吸収促進作用、イソフラボンの生理活性向上が確認され、骨粗しょう症や生活習慣病の予防・緩和に貢献する、安心・安全なアンチエイジングの新規素材として期待される機能性素材がある。「ラクトビオン酸」だ。長らく食品素材として利用されてこなかった同素材を「カスピ海ヨーグルト」の研究から量産化に成功した。
ラクトビオン酸とは
ラクトビオン酸は、グルコン酸とガラクトースからなるオリゴ糖。分子内に複数の水酸基と1個のカルボキシル基を有し、糖質(甘味など)と酸としての性質(酸味など)を併せ持つ。これまでは化学合成でつくられていたが、コストが高く、食品素材としては安全性が確保されないなどでその用途は限られていた。そうした中、足掛け7年の歳月を費やし、「カスピ海ヨーグルト」の研究から同素材の量産化を実現した。
ラクトビオン酸の特長
ラクトビオン酸の最大の特長は、カルシウム塩の高い水溶性にある。乳酸カルシウムと比べると10倍以上、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウムとの比較では、それ以上、さらに炭酸カルシウムとの比較では4万倍以上の水溶性があるとされる。そうしたことから、腸内でもカルシウムの不溶化が防止され、体内吸収率が良好であると考えられている。水1ml当たりCaが30mgとなる様にそれぞれ溶かした場合では、乳酸カルシウムが白濁するのに対し、ラクトビオン酸カルシウムでは、ほぼ透明となる。
骨粗しょう症、イソフラボン作用強化のみならず、
生活習慣病予防への効果も
ラクトビオン酸は、難消化性オリゴ糖としての整腸作用があることに加えて、カルシウムを水に溶けやすくするなどで体内吸収を高め、骨粗しょう症の予防にも役に立つ。エクオール産生促進によるイソフラボン作用の強化も確認されており、骨量減少抑制や生活習慣病予防などにも貢献する。
カルシウム吸収促進作用
ヒト試験
被験者にカルシウムとラクトビオン酸を配合した試験食またはカルシウムのみのプラセボ食を摂取してもらい摂取後8時間の尿中のカルシウム排出量を比較。その結果、試験食群の尿中カルシウム排出量は、プラセボ食群に比して、有意に高い値を示した。体内でカルシウムの吸収が促進されると、尿中の排出カルシウム量が上昇することが知られており、このことから、ヒトにおいてもラクトビオン酸にカルシウム吸収促進作用があることが示された。
骨粗しょう症予防作用
ラット実験では、骨粗しょう症モデルラット(OVX)にラクトビオン酸を与えると(OVX+LacA)、正常ラットと同程度までカルシウム吸収率が改善、それと共に骨密度の向上がみられており、カルシウムとの同時摂取でカルシウムの吸収を促進し、骨粗しょう症の予防・改善が示されている。
マウス試験
エクオール産生促進作用
マウス試験
ラットにイソフラボンを与えたところ、イソフラボンの単独投与(ISO)に比べ、イソフラボンとラクトビオン酸を同時投与(ISO+LacA)で、血中のエクオール(※)濃度の上昇が確認された。また、血中の総コレステロール濃度もイソフラボン単独よりも低くなることが確認された。これはラクトビオン酸のエクオール産生促進作用により、イソフラボンのコレステロール低下作用が強化された結果と考えられる。
※エクオール:イソフラボンの一種であるダイゼインの腸内細菌による代謝産物。イソフラボンがエクオールに変換されることにより、活性が非常に高くなるといわれている。近年の大豆イソフラボン研究では、単にイソフラボンを摂取するだけでなく、いかに効率よくエクオール変換させるかが重要と考えられている。
トピックス
カスピ海ヨーグルト
酸味が少なく口当たりがやわらかいヨーグルト。独特の粘りが特長。まろやかなテイストで従来のヨーグルトが苦手なヒトでも親しみやすいとされる。長寿者が多いコーカサス地方で食され、そうしたことからも日本でも普及が加速した。
日本農芸化学会 トピックス賞受賞
ラクトビオン酸のカルシウム(Ca)吸収促進効果を実証したヒト試験は、日本農芸化学会2011年度(平成23年度)大会[京都]の一般講演トピックス賞を受賞している。2000以上の演題の中から、20ほどが選ばれるもので、その意義や価値がうかがい知れる。
カルシウム吸収助け、イソフラボンの生理活性 を高める今後有望な機能性素材
私は、入社からラクトビオン酸の研究に一から携わってきました。研究では、大阪市立工業研究所と共同で行い、高い機能性を誇りながら、大量生産が難しい、ラクトビオン酸の量産化を目指しました。数々の乳製品を探し、たどり着いたのがカスピ海ヨーグルトでした。ラクトビオン酸は、その中に含まれる発酵にかかわる酢酸菌によって生産・蓄積されます。その特長は、カルシウムなどのミネラルの吸収を助け、骨を強くすること。イソフラボンの生理活性を高めることが主なものとなります。昨年から展開していますが、市場での反応も上々で手ごたえを感じています。タブレット、カプセル、ドリンクなどに対応でき、最終製品としての応用範囲も多様です。機能性を考えると中高年以降の女性をターゲットにした製品での活用が、適していますが、カルシウムやイソフラボンのサポート素材としての用途でのニーズもあります。私としましては、このラクトビオン酸を製品化できたことをうれしく思っているのですが、なによりもひとりでも多くの方々の健康に寄与できれば、それほどありがたいことはございません。
株式会社ダイセル 生活健康事業部 営業グループ 大江健一氏