原料特集 情報提供:株式会社ダイセル
内臓脂肪や美白効果で注目のミカン由来の機能性素材βクリプトキサンチン
英語名:β-cryptoxanthin 化学式:C40H56O
みかんの健康効果はよく知られている。その有効成分は「β-クリプトキサンチン」。昨今、着々と研究が進められ、さまざまな機能性が報告されている。美白作用、ダイエット作用、内臓脂肪低減作用、抗疲労作用など、マウスやヒト試験により確認されている生理活性は幅広い。国産温州みかん搾汁残さを原料に、独自処理した「酵素処理うんしゅうみかん」。温州みかんに比べ、その有効成分が30倍以上血中に吸収されやすいことが分かっている同素材は、安心・安全な機能性素材として美容・健康分野で注目を集めている。
β-クリプトキサンチンとは
βークリプトキサンチンはカロテノイドの一種。α-カロテン、β-カロテン、リコペン、ゼアキサンチン、ルテインとともにヒト血液中に存在する6種の主要カロテノイドの1つ。赤ピーマン、パパイヤ、柿、ビワなどにも含まれるが、機能性素材としての実用レベルといえるのは温州みかんのみ。昔から温州みかんを日常的に食す日本人は、諸外国に比べβ-クリプトキサンチンの摂取量が多い。
昨今、研究の活発化により、生理活性が続々と報告
食文化とのつながりから日本人の血中β-クリプトキサンチン濃度が高めである一方、諸外国では、その濃度は低い。そうした背景もあり、β-カロテンやリコペンなどのカロテノイドに比べ、その生理学的研究は遅れていた。昨今、日本でも研究が活発となり、その結果、新たな生理活性が次々と報告されるようになっている。
抗疲労作用、歯周病予防、
内臓脂肪低減作用、美白効果など多様なエビデンス
日本人にとって身近であり“食べると風邪を引かない”など古くから健康効果が知られてきた食材が原料とあって、研究は幅広く行われている。その結果、骨代謝、脂質代謝に関わる重要な遺伝子の発現促進・抑制、抗疲労作用、歯周病予防、糖尿病予防、内臓脂肪低減作用、ダイエット、美白効果…など、アスリートから高齢者まで、幅広い層への応用が期待される多様な効果が実験により、確認されている。
内臓脂肪低減
ヒト試験
BMIが25~30(㎏/㎡)の軽度から中等度肥満男性26人(平均年齢45.6±9.7歳、平均ウエスト93.3±7.0cm)を対象とした臨床試験では、その改善が認められている。対象者を無作為に13人ずつの2グループに分け、プラセボを用いた二重盲検法による比較試験を12週間にわたり実施。その間、プラセボ群はプラセボ飲料(β-クリプトキサンチンを含まない飲料)を、被験飲料群はβ-クリプトキサンチン乳化タイプを配合した被験飲料(β-クリプトキサンチン0.25mg/100ml含有飲料)を1日あたり2缶(100ml/缶)、朝・夕食後にそれぞれ一缶ずつ継続摂取してもらった。
その結果、、摂取前後で腹部CTスキャン画像の解析により、内臓脂肪面積において被験飲料群は、摂取開始前に比較し、摂取12週目で大きく減少した。さらに体重の変化量の比較で、摂取12週において有意な体重減少が確認された。また、ウエスト周囲径も減少した。
美白効果
モルモット試験
β-クリプトキサンチンは、細胞を用いた実験では、メラニン合成阻害作用を示し、その効果は他のカロテノイドに比較して非常に強いことが分かっている。その作用は、メラニン合成のキー酵素、チロシナーゼの分解促進によるものと考えられている。さらに褐色モルモットに酵素処理うんしゅうみかんを投与し、紫外線を照射して皮膚の黒色化を惹起した実験では、酵素処理うんしゅうみかんの摂取により、明らかな明度の低下抑制作用、つまりメラニン色素沈着抑制効果が観察されている。
ヒト試験
ヒト試験においては、24人(男女12人)を被験者とし、8週間、酵素処理うんしゅうみかんを経口摂取。試験食としては1粒に酵素処理うんしゅうみかん100mgを封入したソフトカプセルまたはプラセボカプセルを用意した。被験者はプラセボ群、100mg摂取群、200mg摂取群の3群に分け、二重盲検試験として実施した。その結果、シミの個数は、摂取群において有意に減少した。さらに200mg摂取群においては、減少速度が速く、用量依存する傾向が確認された。またシミの面積・濃さにおいても摂取群において有意に改善が確認された。
トピックス
うんしゅうみかんの栄養素
温州みかん一個(Mサイズ100g)で摂取できる栄養素はビタミンC26,4mg、葉酸17,4μg、ビタミンB1 0.08ミリグラム、カロテン800μg、食物繊維0.8g。日本人1人の年間消費量は5キロといわれる。最盛期は、20キロだったといわれるが、食の多様化などの波に押され、大きく減少している。
みかんの摂取と生活習慣病予防に関する栄養疫学調査
古くから日本人に馴染みがあり、健康によいとして知られる温州みかん。みかん摂取量が多いとされる静岡県浜松市三ケ日町では、(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所健康機能性研究チームにより「ミカンの摂取と生活習慣病予防に関する栄養疫学調査」が行われている。2003年に住民を対象に行った調査の結果、肝機能、インスリン抵抗性、骨密度、メタボリックシンドロームの各項目で、他のカロテノイドに比べ、β-クリプトキサンチンが優れるといえるデータが出た。調査は、10年間追跡して行われる予定で現在も継続されている。
内臓脂肪低減、美白効果での実験結果ではキレイなデータが出た。マルチな機能性が証明されつつある。
β-クリプトキサンチンの研究に着手したのはおよそ10年前です。同成分ががんに効くという報告もあり、存在は認知していましたが、その後、健康食品素材としての研究対象としてピックアップしました。原料ソースとしてβ-クリプトキサンチンを含有する食品はいくつかありましたが、ビジネスベースで考えると温州みかんしかありませんでした。もっとも温州みかんに入っているβ-クリプトキサンチンでは薄すぎるので、まずはどうやって濃縮するか、ということがポイントとなりました。さまざまな検討の結果、酵素処理により、濃縮に成功しました。酵素処理した温州みかんエキスには、さらにもうひとつのメリットがありました。生体への吸収率がアップしたのです。素材としての売りのひとつになっているのですが、実は副次的な産物だったのです。抗酸化物質として、骨代謝、脂質代謝に関わる重要な遺伝子の発現促進・抑制、歯周病予防、糖尿病予防、抗疲労作用などマルチな機能性が証明されつつありますが、内臓脂肪低減、美白でのヒト実験ではキレイなデータが出ましたね。まだまだ、可能性を秘めた素材ですので、今後も実験を重ね、新たな機能性を追求していきたいと思っています。現在は、尿酸値低減のデータが得られつつあります。また、認知症に対する効果も報告されており、将来的にはそちら方面の研究にも着手しようと計画しています。
株式会社ダイセル 中央研究所グループ長 理学博士 向井 克之博士
東京工業大学大学院理工学研究科修了。ここ10年、健康食品素材の研究開発に携わっている。