急成長めざましいPB化粧品市場
近年、化粧品市場におけるPB化粧品の伸張が著しいと言われる背景には景気の急速な悪化による低価格化粧品へのニーズの高まりがある。2005年の薬事法改正に伴いOEMによる化粧品製造が容易になると、利益率の高い化粧品市場への異業種参入が増加したこともひとつの要因としてあげられる。少し古いデータではあるが、07年度のPB化粧品市場は前年度比10.5%増の116億円で推移(A)しており、05年度の市場規模を100として近年の市場伸張率をみると、06年度は110.5%、07年度は122.1%と、ともに2桁増を維持していることは消費者の低価格志向に企業が応える形で PB化粧品への注力度が高まった結果といえよう。また、07年度のPB化粧品の企業別販売構成(B)では、イオンが販売高21億円で構成比18.1%、マツモトキヨシホールディングスが17.5億円で同15.1%、日本生活協同組合連合会が16.7億円で同14.4%、大創産業が10.4億円で同9.0%、良品計画が10億円で同8.6%、スギホールディングスが3.5億円で同3.0%となっており、GMSやドラッグストアが先行して市場拡大に貢献している。
価格重視から品質重視への転換期
PB化粧品というと、一般ユーザーにとってはやはり「お手ごろな価格」というイメージが定着している。確かに、PB化粧品はナショナルブランド(以下NB)商品に比べて約203割の安価な価格設定を行っているものが多い。市場を牽引するGMSやドラッグストアでは、ボディーソープや入浴剤、頭髪化粧品などのトイレタリー商品を主軸に展開しており、この商品構成が消費者の目には品質重視ではなく価格重視とみられるイメージに映っているようだ。しかし最近では、PB化粧品にもNB化粧品と同様の機能や品質を求めるユーザーも増えている。
例えばマツキヨブランドでは内容成分やパッケージのクオリティにこだわりをみせ、店頭でNB商品と並べた際にもまったく見劣りしない高級感と品質の高さを打ち出し、消費者の期待に見事に応えている。また、専門店や通販各社も機能・品質重視のPB化粧品の展開に積極的だ。無印良品では美白やアンチエイジングなどの機能訴求でスキンケア商品を続々と投入し、品質面ではオーガニックシリーズの開発を行うなど消費者のニーズを敏感に察知した商品展開に力を入れている。この動きは既存の化粧品メーカーが取り組む商品ライン拡充のパターンとまったく同様だ。
こうした流れは消費者が化粧品を購入する際の、NBかPBかを問う意識が低くなっていることを物語っている。しかし、一般的にはPB化粧品は「安くてそれなりのもの」という意識が根強いことも事実だ。大手NB化粧品や海外ブランド化粧品はTVCMや雑誌広告での露出度も高く、華やかな印象を与えており、女性美容雑誌に登場するコスメもまだまだ大手NBメーカーの制度品、海外ブランド商品が多い。注目されやすいからこそ、消費者の目には「使ってみたい化粧品=良い化粧品」として映る。PB化粧品は、販売コンセプトとして「大規模な宣伝、広告はしない」とするところが多く、露出が少ない分「知っている人のみ、その良さがわかる」という域を出ない。だがインターネットの普及によって口コミ情報が瞬時に大量に流れるようになり、消費者が「安くても良いもの」を実感として感じる商品の情報を主体的にキャッチすることで、「良いPB商品の知名度をアップさせる」結果となっている。
プライベートブランドのブランドロイヤリティ
そんな状況のなかでPB化粧品が「売れる」特徴を出していくには、大きく2つの方向性がある。一つは「トレンド志向」。時代のニーズをとらえ、タイムリーにそれに応える商品。例えばドラッグストアのマツモトキヨシでは、店舗の棚の動きから消費トレンドを敏感にキャッチし「ほかに何を作れば売れるのか」に徹した商品開発姿勢を貫いている。また、ハイセンスなライフスタイルを提案する生活雑貨のアフタヌーンティー・リビングでは、昨今の消費者傾向である「外出を控えて家でちょっと豊かに過ごす時間を充実させる(巣籠もリッチ傾向)」をさらに分析。「自分磨きに時間をかける」女性が増えていることを受け、ヘアケアやネイルなどの「先端ケア」商品を充実させている。トレンド志向の変化球として、カタログ販売最大手の千趣会は、既存のNBメーカーの人気商品の内容成分を変えた「オリジナル処方」を記念イベントとして企画し、他では買えない「特別なコスメ」が大ヒットにつながった。
トレンド志向が強くなるほど、NBメーカーの制度品と競合する部分も多くなる傾向にある。消費者もNB化粧品に求めがちな、「注目成分が入っているか」「肌悩みのトレンド(帯状毛穴、大人のニキビなど)に対応しているか」「注目されるお手入れ法に合っているか(オールインワンタイプのクリーム、シートマスクなど)」を基準に選ぶ傾向があり、その要望にしっかり応えるPB商品が好調だ。こうしたトレンド志向の強いPB商品は値段も高めで、「PB商品はお手頃価格」というイメージは薄い。
もう一つの方向性が「ブランドロイヤリティ」。ブランドの世界観を強く打ち出して特徴づけることだ。無印良品はシンプルで無駄を排した美しさを開発コンセプトとするが、内容成分に関しては化粧品の基本である水にこだわるなど、「本当に必要なものはなにか」を追求する姿勢を商品に落とし込み、成功している。また戦後に生まれた生協(日本生活協同組合連合会)は、安心・安全を前面に掲げた商品開発を貫き、ブランドイメージを定着させている。
このようにブランドロイヤリティが高くなるほど、消費者のブランドイメージも明確になっていく。イメージを特徴づけるキーワードとして挙げられる「シンプル」な無印良品、「安心・安全」の生協、「手が届く贅沢感」のアフタヌーンティー・リビングなど、「安くてそれなり」というPB化粧品の悪しきイメージから脱却し、NBメーカーに引けを取らない地位を確立しつつある。今後は強い流通チャネルを持つGMSやドラッグストアのPB商品がさらに拡大する一方で、ブランドロイヤリティの高いSPA(製造小売)企業のPB戦略にも注目が集まるだろう。
今回は、流通系からドラッグストアの雄であるマツキヨ、カタログ販売最大手の千趣会、PB化粧品の草分け的存在である生協と、SPA系で勢力を急拡大する無印良品、そしてライフスタイル提案型のアフタヌーンティーの5社に取材を行い、それぞれに特徴的な商品開発について分析を試みた。
- 成分もボトルも、無駄なものは徹底的に省き、シンプルなのにこだわりを感じさせる作りで圧倒的な支持を得るコスメブランドに成長。
- NB商品が並ぶ売り場で勝負する、
「マツキヨ」のコスメ戦略は、高付加価値PB化粧品の開発だった。
- 発売33年のロングセラー商品を持つ、PBブランド化粧品の草分け的存在。
開発の出発点は高度成長期の組合員の声。
- 国産オーガニック化粧品に加え、
有名メーカーとのコラボで生まれた
PB化粧品の新しい形。
- トレンドを敏感にキャッチし、
「手がとどく贅沢感」をプラスした商品を提案。生活に豊かさを求める女性の心をつかむ。
プロフィール
- 三原 誠史(みはらせいじ)
- ブランディングプロデューサー
大阪芸術大学 デザイン学科 講師 - 1963年生まれ。
大阪芸術大学デザイン学科卒。
大手家電メーカーの戦略デザイン室にてシングル家電シリーズをデザインコーディネートする。大手出版社を経て、ブランディングプロデュースの活動を開始。化粧品メーカーの新商品開発、ブランド開発を多数手がける。 - (問い合わせ) bp.mihara@gmail.com