「え、あの会社がなぜ化粧品を?」富士フィルムがCMに松田聖子と中島みゆきを起用し、世間の注目を集めたことは記憶に新しい。2007年秋に発売した「アスタリフト」は当初、通信販売だけで展開していたが、2008年にテレビCMを開始したことで一気に“異業種参入のコスメ”としてブランドの認知度をアップさせた。また、大手食品メーカーの味の素は富士フィルムよりも10年以上前の1997年からアミノ酸研究を生かした化粧品「ジーノ」を展開し、酒造会社の日本盛は1987年から酒造りの過程で生まれる米ぬかを利用した「米ぬか美人」を展開していた。さらに真珠でおなじみのミキモトは、「パールサイエンスによるアンチエイジング理論」を打ち立て、独自のパール成分を活用した化粧品を展開している。これらの異業種参入黎明期のコスメは、地道に固定客を増やし競争激しい化粧品市場にあって今や安定期を迎えている。一時のブームと見る向きもあった異業種参入コスメは未だ新規参入する企業が後を絶たず、景気低迷の中むしろその勢いは加速している。

上表のような多くの異業種メーカーは、なぜ当初の事業分野ではない化粧品をヒットさせることができたのだろうか?それは、自社が長年培ってきた独自の技術を化粧品に応用することで、化粧品メーカーが思いもしなかった成分開発ができていることが鍵となっている。例えば、前述の富士フィルムはフィルムの主原料であるコラーゲンの加工技術を生かし「うるおい成分」を見事に応用することができた。世界に誇るナノ技術でリードする「ホソカワミクロン」は、その粉体技術を生かしてシミやシワを極限まで目立たなくするなど、女性の要望を叶える結果を出した。さらにニチレイは、20年前から進めてきた洋ランの研究により、保湿性の高いエキスを抽出。化粧品の原料を生産してきた昭和電工と協力して商品化した。
これまで化粧品市場の参入について分析された資料には、単に「製薬会社など主要事業の伸び悩みがあるメーカーが、化粧品事業に新たな成長を期待して参入する」という時代背景的な理由も見受けられた。特に製薬系は皮膚炎薬のノウハウを応用やドラッグストアなどの販売チャネルの活用などの理由で参入しやすかったという事情がある。しかし、ニチレイやヤマダ電機、大手流通のPB商品のように「主力事業がある程度安定している企業が新たな収益部門を育成する目的」というケースもあり、参入への動機も年々多様化してきている。
また、多様化しているのは参入動機だけではない。下表のように参入パターンも(1)提携、(2)技術・原料活用、(3)医薬品ノウハウの活用、(4)原料活用、(5)技術応用など様々だ。各企業は長年培ってきた独自の強みを発揮することで参入障壁を突破し成功を収めている。

これらの異業種参入コス メの販売に関する特性は、化粧品の販売チャネルを持たないことから通販型で参入するケースが最も多くみられる。通販チャネル以外には、薬局・ドラッグストア、バラエティショップ、直営店などとなっており、特にインターネット通販を展開する事例は全体の70%以上に達している。キャンペーンや割引販売などの販促活動もWEB媒体で告知されるケースが多く口コミサイトなどと連動して販促を行うケースも増え、富士フィルムや大正製薬、月桂冠などが積極的に取り入れ、認知度を大きく向上させている。 しかしながら、「こんな化粧品がほしかった」と新たなメーカーを選ぶ女性たちの購買動機は、ただ単に「効果を語っている口コミ」の威力だけではない。「あの会社が…」と名前を聞けばわかる大手企業だからこそ、「安心して買う」ことができるのだ。高齢化や働く女性の増加などを背景に、これからもヘルス&ビューティーのカテゴリーは主力事業に次ぐ新たな成長分野として本格参入を検討する企業は益々増えていくだろう。 販売チャネルについては、webサイト上でのサービス充実や提携などによる投資が一段と必要になってくるだろう。いずれにしても、企業ブランドに頼らない品質や安全性、使用感など化粧品の独自性で築き上げるブランド力が市場参入後の成否を分けることになることは間違いない。
今回は新規参入コスメとして注目を集めている、新日本製薬(ラフィネ)、ヤマダ電機(プインプル)、ロート製薬(ハダラボ)、ニチレイ(シルヴァン)の4社に話を伺った。
- 肌に必要なものだけをまっすぐ届けるシンプルケア。専門担当者のヒアリングで信頼を獲得。
- 家電量販店が化粧品分野へ進出。「顧客満足追求」の姿勢から生まれた高品質コスメ。
- “パーフェクトシンプル”を開発コンセプトに。皮膚科学の研究から生まれたスキンケア化粧品。
- “蘭”のチカラで贅沢なうるおい肌を実感。アンチエイジング目指し気品あふれる毎日を。
プロフィール
- 三原 誠史(みはらせいじ)
- ブランディングプロデューサー
大阪芸術大学 デザイン学科 講師 - 1963年生まれ。
大阪芸術大学デザイン学科卒。
大手家電メーカーの戦略デザイン室にてシングル家電シリーズをデザインコーディネートする。大手出版社を経て、ブランディングプロデュースの活動を開始。化粧品メーカーの新商品開発、ブランド開発を多数手がける。 - (問い合わせ) bp.mihara@gmail.com