6月1日から改正薬事法が施行された。 「登録販売者」を置くことで、コンビニや スーパーなどでもほとんどの医薬品の販売が可能 となる“規制緩和”の一方、ネットでの 医薬品販売は、大幅に規制される。 (2年の経過措置あり)。パブリックコメント で多くの反対意見が寄せられるなど、根強い ニーズがあり、今後も拡大が 見込まれている医薬品のネット販売は、なぜ 規制されるのか。この問題で、4年に渡り、 厚労省と折衝してきた(株)ケンコーコム 社長で日本オンラインドラッグ協会理事長 の後藤玄利氏に心境を直撃した。
おかしいと思います。2005年より厚生労働省に働きかけを行い、ネット販売の安全策も示してきました。今回の省令づくりの検討会への参加も求めましたが、門前払いされました。省令公布後に舛添大臣の肝いりではじまった検討会にはようやく委員として参加が認められ、省令再改正に向けて忌憚のない意見は述べさせていただきましたが、議論は平行線を辿り、報告書すら出せない状況でタイムアップとなりました。
一方で、検討会に承認されない経過措置の省令案が5月11日に発表されましたが、その案は「2年間の経過措置で、離島居住者および継続購入者に限って2類の販売を認める」という、とても承服しがたいものでした。しかもこのパブリックコメントはわずか1週間の応募にもかかわらず、9,824件もの意見が寄せられ、経過措置への賛成は42件、わずか0.5%という悲惨きわまるもの。反対に全体の85%にあたる8,333件もの意見が「郵便と販売の規制をするべきではない」というものでした。第3類以外の医薬品ネット販売を禁止する省令に対して、国民の怒りは一層高まっています。検討会開催に当たって、舛添大臣は「国民的議論を」と話していましたが、アレは一体どういう意味だったのでしょうか。
我々はこれまで薬事法に基づき、店舗所在地の知事より許可をいただき、薬剤師が医薬品を管理し、販売している薬店です。ネット販売にこだわっているのは、昨今のドラッグストアにみられる医薬品の販売方法が到底安全とはいえないと感じているからです。医薬品を棚に陳列するだけで、お客さまにセルフで取りに行かせ、パッケージを見るだけで買い物カゴに入れ、アルバイト店員がレジを打ち、代金をいただいて袋に詰めてお渡しする。こんな売り方が「対面」であるというだけで本当に安全でしょうか。むしろ我々が行うネット販売の方がはるかに安全です。ウェブページ上では医薬品のパッケージに書かれている説明だけでなく、説明書にかかれている詳しい説明も読むことができます。薬を買おうとすると必ず問診表がでてきて、その薬を買ってはいけないアレルギーがあるか、年齢制限に引っかからないか、などをチェックしないと買えません。分からないことがあれば、電話やメールで問い合わせられますし、その際必ず薬剤師が丁寧にお答えします。しかしながら、一部を除き、医薬品のネット販売を危険であるとして一律に禁止しました。それも薬事法には明記されていない「対面の原則」に基づいて省令で禁止するというのです。そこにはそもそもなぜ対面でなければ安全性を担保できないのかの根拠は示されていません。危険、ということに関しては、ネット販売だから発生してしまった重要な副作用は一件も報告されていません。そうしたことから鑑みても6月1日から施行された改正薬事法令は2つの致命的問題を抱えているといわざるを得ません。ひとつは憲法で保障された「営業の自由」の侵害、もうひとつは厚生労働省が暴走して、ネット販売の規制を進めていることです。これまで取り得る策は取ってきましたが、検討会が終わりパブリックコメントも終わったいま、この省令を食い止める手段は唯一、行政訴訟を起こすだけしか残っていませんでした。
ネットでの医薬品販売が危険だとする意見の中に、ちゃんとしているところがある一方で、そうでない業者がいる、というものがあります。つまりネットでの販売業者は玉石混交だから危ないというわけです。確かにそういう側面は否定できません。日本オンラインドラッグ協会では自主ガイドランを作成し、さらにその会員企業の拡充を図るなどし、浄化に努めています。ただ、私はそれが充分に果たされたから医薬品のネット販売が可能になるという風には思っていません。我々としてはそういった努力していくことは当然ですが、その前に国がネット事業者の「玉」と「石」の間に線引きをしなければ、いつまでたっても「玉石混交」のままだと考えます。ネットは危険だからダメというなら、その前に、国はネット事業者の優劣を判断する最低限のルールを作るべきです。いうまでもありませんが、インターネットはもはや完全に社会に浸透しているワケですから。
今回の訴訟は、法律の施行まで時間がない中で、限られた選択肢のひとつでした。今後、改正薬事法が施行され、実際に動き始める中で新たにいろいろな展開が出てくることが想定されます。そうした状況を見ながら、臨機応変に動いていくことになると思います。最終的にはもちろん、これまでのようにネットでの医薬品の販売が行われ、全ての国民が安全に平等にかつ、便利に医薬品を手に入れられる環境を整備することをゴールとしています。実はいまの省令のどこをいじればいいかの目星をつけ、そうしたことを実現できる改正省令案も作っています。出すタイミングはありませんでしたけどね。
なくなるものはもうどうしようもない。取り返せません。もちろん、ほかの各カテゴリーのさらなる強化は図っていきますが、それは今回の件がなくてもやっていくこと。そうした中でできる限り経営努力をし、それと並行して省令の改正を働きかけていくということですね。
とにかく、これまで4年間、私どもはしっかりと議論すれば行政は理不尽な結論を出さないはずだと信じて厚労省と折衝してきましたので、このような結果は大変残念です。ただし、悪法とはいえ法は法なので、決まった以上、我々はしっかりとルールに則ってやっていきます。その上で、行政の暴走は法の番人である司法が食い止めていただけると信じ、消費者の利益のためにも、より安全で便利な医薬品ネット販売を再開できる日がくることを心より願っております。
インターネットを巡る厚労省とのやり取りの履歴
プロフィール
特定非営利活動法人
日本オンラインドラッグ協会 理事長
(ケンコーコム株式会社 代表取締役)
後藤 玄利 (ごとう げんり)
【ケンコーコム株式会社】
1994年11月設立。健康関連商品の通信販売を行う。取り扱い商材は、11万を超え、健康美容業界のネット市場を牽引する。カテゴリーは健康食品、フード、化粧品、日用品、介護、健康機器と多岐にわたり、医薬品も取り扱う。ネットでの医薬品販売については、薬剤師チーム管理の下、慎重に行っている。2009年3月期売上高103億1200万。
■ 医薬品ネット販売の行政訴訟が初公判
ついに訴訟へ 2009年7月14日
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ついに訴訟へ 2009年5月25日